50代というのは、女性にとって本当にきつい年代ですよね。
更年期による体調の不調に加え、子供たちの問題、両親の病気や介護、親戚の法事、夫の退職、老後の不安・・・。
自分のことだけで精一杯なのに、次から次へと問題がやってききます。
NHKドクターGで紹介された女性も、毎日に生活で、ストレスを抱えていたようです。
1年ほど前から、背中に痛みを感じるようになっていて、気になっていたようですが病院へは行ってませんでした。
しかし、娘さんと電話で話をしていた時、突然息をつけないほどの激しい背中の痛みに襲われます。
痛みは背中ばかりでなく、肩や顎までも痛み、驚いて駆けつけた娘さんと病院に駆け込みます。
実は、同じようなケースが、私の叔母に起こったことがあります。
几帳面で何でも完璧にこなすスーパーウーマンの叔母でしたが、ある時突然背中の痛みで病院に担ぎ込まれました。
すぐに、脳から全身のあらゆる検査をしたのですが、異常が見つかりませんでした。
そして、叔母に下された診断は、「うつ」でした。それも、精神的より肉体的なものに現れる「軽症うつ病」でした。
「軽症うつ病」は、仮面うつ病とも言われ、「うつ病らしくないうつ病」とも呼ばれています。
精神的より、肉体的な症状として現れ、体がだるい、よく眠れない、食欲不振、体重減少などの全身症状が現れます。
特に、特徴として「痛み」があります。お腹や胸、また、背中の痛みを訴える人が多くいます。
叔母は、症状に適した治療薬を処方してもらったところ、症状がピタリと収まり改善しました。
同じような症状を示す病気に、ストレスからくる転換性障害というものがあります。
はたして、今回紹介された女性のケースは、なんだったのでしょうか。
ドクターGこと、岡山大学病院の片岡仁美先生が、研修医たちを病名解明へと導きます。
1年前から続く背中の痛み
ファーストカンファレンスは、狭心症、冠攣縮性狭心症、急性心筋梗塞などの心臓疾患系の病名が挙げられました。
患者さんの、あご、肩、心臓、背中などの痛みは、心臓からくる関連痛と考えての診断です。
狭心症であることを確定するためには、心電図、エコー検査、CTスキャン、心臓カテーテル検査が必要です。
とりあえず、心音と呼吸音には問題がないと伝えたとき、患者の表情が曇ったのをドクターは見逃しませんでした。
問診を続けたところ、女性はこれまでも何度か別な病院へ行き様々な診断を受けていたことがわかりました。
レントゲン、エコー、心電図、CTスキャン、胃カメラ、MRI、心臓カテーテル検査など考えられる検査をすべて受け、いずれの検査で異常なしと言われていたそうです。
それでも痛いと訴えると心療内科をススメられ受診しましたが、そこでも異常なしとの診断でした。
更年期については、1年ほど前から生理不順となり、2年程前から、手足の冷えや発汗が起こっていました。
これらのことから、研修医たちのセカンドカンファレンスでは、高安病、自律神経失調症、更年期障害と診断が変わりました。
しかし、高安病は発症年齢が合わず、自律神経失調症と更年期障害は背中の痛みが説明できません。
最終診断は微小血管狭心症
別の可能性としてでてきのが、身体表現性障害があります。
身体性表現性障害は、検査などで何の異常もないのに、頭痛や腹痛、吐き気、しびれなど、様々な場所に多彩な場所に症状が現れる病気です。
しかし、肩、背中、胸、あごの痛みは、やはり心臓からくる典型的な関連痛の疑いが強く残ります。
ドクターGは、心臓カテーテルでも写らない心臓の病気、毛細血管に着目しました。
心臓の微小血管の障害です。更年期でエストロゲンが減少し毛細血管が収縮し、狭心症と同じ症状を引き起こすことがあります。
ドクターGは、心臓の毛細血管を確認するため、循環器内科の専門医に心臓カテーテル検査と負荷心電図検査を依頼し、微小血管狭心症であることを確定しました。
患者さんは長期にわたり薬を服用し、症状を改善することができました。
更年期の女性の10人に1人が微小血管狭心症
微小血管狭心症は、あまり知られていない病気ですが、更年期の女性の10人に1人はこの病気と言われています。
1980年にアメリカで発表された病気で、日本では2010年にようやくガイドラインが制定されました。
まだ詳しい診断基準は定まっていませんが、治療薬としては、カルシウム拮抗薬、ニコランジルが効くことがわかっています。
この病気は医師の間でもあまり知られておらず、通常の検査では異常が発見できないため、病気と診断されないで悩んでいる女性が多くいると推測されています。
もし、同じような症状がある方は、循環器内科を受け「微小血管狭心症」の可能性を調べてもらってはいかがでしょうか。