早期発見により、がんの生存率は飛躍的に高まりました。しかし、一部のガンや進行の進んだ癌では、再発するケースも多く、がんの根治の道のりは困難を極めていました。

癌が発見されると外科的手術や放射線療法により、がん細胞を取り除いたり、放射線で死滅させます。

その後、目に見えないがん細胞を殲滅させるため、抗がん剤による治療を行いまが、再発や転移が起こります。

大阪大学 森雅樹教授は、これまで手術で提供を受けた、1000人以上の癌の組織を徹底的に分析しました。

その結果、がんの細胞のほかに未知の細胞が見つかりました。それが、がんの大元になる「がん幹細胞」だったのです。

実は、がん細胞の増殖は、がん細胞の分裂だけではなく、がん幹細胞ががん細胞を次々と生み出していたのでした。

そして、がん細胞を生み出す女王蜂のような「がん幹細胞」の存在とメカニズムが解明されるようになったことにより、まったく新しいがん治療法が研究されるようになったのです。

また、がん幹細胞には、細胞分裂のスピードが遅い、抗がん剤が効きにくい、いつ活動を始めるかわからないという性質があります。

抗がん剤は、細胞分裂を繰り返すがん細胞には有効ですが、がん幹細胞は細胞分裂しないため、抗がん剤が効かず殲滅が難しく、それが体内に残り、再発の原因となっていることがわかってきました。

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「幹細胞をいかに叩き、殲滅させられるか」今、世界中の医療関係者が競い合っています。

九州大学生体防御医学研究所の中山敬一教授は、がん幹細胞の「Fbxw7」というたんぱく質の働きを抑えると、がん幹細胞が細胞分裂のスピードが早くなることを突き止めました。

Fbxw7の機能を抑え、がん幹細胞を増殖させた状態で、白血病のマウスに抗がん剤治療を行ったところ、これまでは100%の再発率だったのを、20%に押さえることに成功しました。再発率を1/5に抑えることができたのです。

国立がん研究センターと慶応大学の佐谷秀行教授は、胃がんのがん幹細胞のポンプ機能を詰まらせることにより、がん幹細胞の抵抗力を弱め、抗がん剤で死滅させることを確認しました。

この薬とは、なんとリウマチの薬。リウマチの薬ががん幹細胞の入り口に蓋をし、がん細胞の体力を弱らせることで、抗がん剤を治療効果を飛躍的に高めることを確認しました。この薬は、現在、安全と効果を確かめる臨床研究の段階だそうです。

がんは早期発見し治療すれば、8割、9割治ることができます。早期発見が難しいがんや、治療が難しい癌に対して、このがん幹細胞の標的とした治療法が確立されれば、生存率も劇的に改善することが期待できます。

がん幹細胞と人との最先端の闘いは、始まったばかり。10年後、20年後は80%の根治目指して、研究が続けられています。