毎年、正月になると餅を喉につまらせる事故が増えており、「餅は小さく切ってゆっくりお食べください」とニュースで何度も注意を促していましたね。
高齢になると、唾液の分泌が減る、噛む力も衰える、咽頭が下がってしまうなどから、食べ物が気道に入りやすくなってしまいます。
今回の患者さんは、飲食業を営む67歳の男性ですから、高齢者の症状があってもおかしくありません。
しかも、糖尿病を患っており、人工透析もインスリン注射もしているようです。
最近、食べ物が飲み込みづらくなっているので、昼は喉通りの良い「にゅう麺」にすることにしました。
ところが、にゅう麺を食べている最中、急に喉につまらせ意識を失ってしまい、救急車で運ばれてきました。
食べ物が飲みこみにくい感じは、咽頭がんや食道がんなどが思い浮かびますが、急に喉を詰まらせることはありません。
糖尿病のため口が乾いていますので、食べ物を詰まらせることも考えられますが、汁物の「にゅう麺」ですから、それもちょっと違うような気がします。
にゅう麺の小麦でアレルギーを起こし、アナフィラキシーショックを起こした・・?。
診察してみると、のどに不思議な腫れが見られたようです。ヒントは、「骨が溶ける病気」のようです。
沖縄県立中部病院 金城光代先生が、研修医たちを病名解明へと導きます。
倒れたときの様子とこれまでの経緯
1週間前から物が飲み込みにくく喉につまる感じがあるので、にゅう麺にしてもらい食べていました。
倒れたところを見ていた娘さんの話では、にゅう麺をズルズル吸って食べていたところ、口をパクパクしてバタンと倒れたそうです。
喉を詰まらせ意識がなくなったので、すぐに救急車を手配しで運んでもらいました。
●糖尿病になった経緯
10年前に水虫がこじれて、いつまでも治らないため病院へ行ったところ、糖尿病であることがわかりました。
以前より血糖値が高いことの指摘を受けていました。それからはインシュリンをうち、煙草をやめ、食事を節制し運動も始めました。
糖尿病を患って10年、カロリーや塩分に注意して生活してきました。しかし、2年前頃には、味の濃さがわからないなど味覚に対してにぶくなってきました。
その頃、吐き気もするようになったので病院へ行ったところ尿毒症になっているとのことで、以降週3回の透析を受けるようになりました。
倒れるちょっと前に目がかすむ症状がありました。また、耳だれがあり耳鼻科に行きました。糖尿病のため治りにくいといわれました。
通った耳鼻科の病院に問い合わせたところ、悪性の外耳道炎にかかっていたので、抗生剤(点耳薬)を処方したところ改善したとのことです。
●緊急隊の報告
・67歳の男性
・のどを詰まらせ一時窒息
・異物を除去し呼吸心拍再開
・糖尿病で人工透析
・左肩部に手術の後があり
●病院での検査
・心電図問題なし
・心筋梗塞、脳梗塞なし
・MRIとれない(肩に骨折の金属が入っているため)
・CT、脳に軽い腫れ、喉の部分にちょっとした腫れが見られる
●バイタルデータ
体温 37.8度
血圧 149/90
脈拍 92回/分
一時的な心肺停止で、すぐに呼吸も心拍も落ち着いたためICUで様子をみる
ファーストカンファレンス
サルコイドーシス
全身のリンパ節や臓器に肉芽腫がと呼ばれる異常な細胞の塊ができて炎症をおこす原因不明の病気。
肺にできることが多く、息苦しさ、せきが起こる。まれに心臓にできると、不整脈、心不全、意識消失がおこる。
不整脈からおこる意識消失、ぶどう膜炎による目がかすみなどから診断。
敗血症
細菌やウイルス感染で起こる命に関わる重篤な病気。ショック状態に陥り意識を失うこともある。糖尿病であることから感染症にかかりやすいことから診断。
糖尿病性神経障害
糖尿病による合併症で抹消神経に障害が起こる。手足のしびれ、立ちくらみ、下痢、喉の神経に問題が起こると飲み込みにくい症状がでる。
糖尿病から神経の合併症がおこり、味覚障害、嚥下障害がおき、喉が詰まって迷走神経反射で意識を失ったと考える。
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迷走神経反射とは、恐怖や精神的なショックで、迷走神経を刺激すると脳への血液がいかなくなり意識を消失してしまう症状です。
診断には、意識消失が先か窒息が先かがポイントになります。サルコイドーシスと敗血症は、意識消失が先との判断から、糖尿病性神経障害は窒息が先との判断からの診断です。
喉を詰まらせた原因は、
①糖尿病性神経障害
②のどの上「上咽頭」の腫れ(悪性外耳道炎、上咽頭ガン)
③脳梗塞
に絞られました。
上咽頭がん
上咽頭の部分に悪性腫瘍ができる病気で、耳や鼻の詰まった感じ、聞こえにくい、目が見えにくいなどの症状があります。
上咽頭腫瘍
外耳道炎から悪性外耳道炎となり、上咽頭部に腫瘍ができる病気です。鼻の奥の痛み、違和感、耳の聞こえにくさなどの症状があります。
免疫力の低下した糖尿病患者はなりやすくなります。
●追加診断
倒れたところを見ていた娘さんの話では、ちゃわんを落とさなかったことから、窒息が先であったと推測できます。
CTでは、喉の少し上の鼻と耳の間に腫れが見られました。上咽頭が腫れ迷走神経や舌咽神経に影響があたえていた可能性があります。
バレー徴候・・・問題なし
聴覚振動検査・・・手足の振動覚問題なし
アルコール綿で顔の左右差をみる・・・左側が弱い
アルコール綿で腕の左右差をみる・・・変わりなし
耳の状態・・・入院中にも多少悪くなっている
カーテン徴候・・・口の中にカーテン徴候見られた
嚥下障害の原因を、上咽頭膿瘍と上咽頭がんに絞りこみ、抗生剤の点滴治療を開始すると同時に、上咽頭がんの可能性を消去するため、組織をとり生検を実施。結果は陰性でした。
最終診断
悪性腫瘍のようにように拡がる悪性外耳道炎でした。
糖尿病の合併症からおこる悪性外耳道炎で上咽頭膿瘍ができ、迷走神経や舌咽神経に圧迫して嚥下障害がおきていました。
にゅう麺を食べたときにのどに詰まり、迷走神経反射が起こり意識消失していたのです。
治療は、抗菌薬を2週間点滴をしたところ、嚥下障害がかなり改善しました。また、半年後には、腫れもひいて溶けていた骨も回復してきました。
ドクターGからのアドバイス
なじみの薄い病気は、他科の医師と連携して情報を集め、診断することが大切です。