歳を重ねてくると疲れなのか病気なのか、本当にわかりづらくなってきますよね。
若いうちは、食欲がない、だるい、熱があるといえば、すぐに身体の異変とわかりますが、中高年になるとそうもいきません。
心配になって、病院に行っても、タダの疲れでしょう・・と言われることもしばしば。今回の患者さんは、84歳の女性ですから、特にそうだと思います。
患者さんは、転倒して大腿骨骨折をしてしまい、歩けない状態のようです。
59歳の息子さんが、早期退職して1年前から献身的に母の介護を続けていました。
ある日のこと「母親が1週間前からなにも食べない、口もきかない」と、慌ててて診療所に駆け込んできたそうです。
話しを詳しく聞いてみると、複数の医療機関で色々な診療を受けているようです。投薬の組み合わせの問題なのでしょうか。
今回は地域医療のスペシャリスト あさお診療所 西村真紀先生が、家庭看護での問題点を指摘し、研修医を導いてくれます。
84歳女性、食べない、口もきかない、認知症状も・・
母八重さん84歳は、12年ほど前に胃がんの手術で胃を摘出しています。
大腿骨の骨折しましたが、リハビリに通っていて、歩けるほどに回復していました。
3ヶ月前に来院し検査したときは、レントゲンも血圧も異常ありませんでした。
2週間前に来院したときは元気がなく、待っている間に何度もトイレに行くのを事務員が見ていました。
一週間前に、自宅でトイレに行くのが間に合わず廊下で尿失禁をしてしまいました。
それから、おむつをしているのですが、食欲もなく何も食べなくなって口もきかなくなってしまいました。
いろいろな病気があるので、複数の病院へ通い治療を受けています。
●バイタルデータ
長沢八重さん(84)身長153cm 43kg
体温 37.2℃
血圧 138/82
脈拍 72回/分
呼吸数 16回/分
ファーストカンファレンス
・ビタミン12欠乏症
血液をつくる働きをしているビタミンB12 が欠乏して起こる病気。症状は貧血、歩行障害、認知症など。胃を切除している人はなりやすい
・うつ病
不眠、食欲不振、気分の落ち込み
・脳血管性認知症
脳の血管障害などで起こる認知症。症状は動作や思考が鈍る、片側の手足のまひ、歩行障害 尿失禁。
●プログレムリストをつくってみる
食欲不振 傾眠傾向
意識低下 めまい
尿失禁 眼科通院
皮膚掻痒 骨粗しょう症
ふらつき 意識障害
胃がんの術後 微熱
折り紙が折れなくなった 左上肢麻痺?
大腿骨骨折術後
●そのほか疑われた病気
高カルシウム血症・慢性硬膜下血腫・甲状腺機能低下症・尿毒症・腎盂腎炎
●往診時にわかったこと
・下肢の麻痺なし 異常なし
・上肢の麻痺 異常なし
・貧血 異常なし
・脱水症状 4秒で戻り多少脱水
・いろいろな病院へ通っている
・浮腫があった
・頻尿の新規の薬
・脱水
・易疲労感
●患者の通っている病院
整形外科(骨粗しょう症 変形性膝関節症)
泌尿器科(頻尿 尿失禁)
心療内科(軽度の認知症 不眠症)
内科(軽度高血圧 軽いむくみ)
皮膚科(老人性皮膚掻痒症)
耳鼻咽喉科(めまい)
眼科(白内障)
リハビリテーション科(骨折後のリハビリ)
消化器内科(胃がん後の定期健診)
Gの診療所(健康検査 予防接種)
それらの通院でもらっている薬をチェックしたところなんと18種類の薬が処方されていました。
最終診断・・薬剤性高カルシウム血症
最終診断は、薬の飲み合わせのせいでおこった薬剤性高カルシウム血症です。
高カルシウム血症は、病気によって血液中のカルシウムが異常に増える病気です。症状は、多飲多尿、食欲低下、けん怠、意識障害などが起こります。
悪性腫瘍、副甲状腺機能亢進症 薬剤性高カルシウム血症などが原因で起こります。
患者さんは、もともと高齢で脱水症状もあり薬の症状がでやすい状態でした。
骨粗しょう症の治療のため、カルシウム剤やビタミンB12を飲んでいたので、体内のカルシウムは十分足りていました。
そこに新たに利尿剤を飲み始めたため、体内のカルシウム排出が抑えられ、高カルシウム血症を起こしたのでした。
西村真紀先生からのアドバイス
現在、高齢者に対してのポリファーマシー(多剤投与)が問題となっており色々な病気の症状となって現れていることがあるのだそうです。
また、それらの病気の症状が、老化か、病気か、薬かを見極めることが大変難しいそうです。
西村先生は、それを診れるのが掛かり付け医であり、老人を診ることこそ家庭医の役目といいます。
「老化は病気ではないため、大学では老化を学びません。ですからこそ、しっかり老化を診れる医者が必要とされています。」西村先生から研修医に、熱いメッセージが送られました。
私たちも、先生のような素晴らしい家庭医に巡りあい健康を管理してもらいたいですね。