腰の痛みは日常的という人も多いですが、今回のケースの腰の痛みは、どうやらそんな程度ではないようです。

患者は、広告代理店に勤務する38歳の女性です。前日に、飲み会があり、酔いつぶれた部下を介抱して肩をかしたところ転倒してしまいました。

それから腰がどんどん痛みはじめ、歩けないほどに。タクシーに乗り、ようやくの思いで病院に到着しますが、自分の力で降りられず、ストレッチャーのお世話になるほどの状態に。

女性が、発熱や悪寒、腰回りの痛み、40度に近い熱などが急に起こった場合、腎盂炎の可能性が否定できません。

腎臓部の痛みが、脇腹から背中に拡がって、腰の痛みと錯覚することもあるようです。

はたして、今回の女性の病名は何なのでしょうか・・。福井大学医学部 救命救急センター 林寛之先生が突き止めた驚きの診断結果とは・・。

サルも聴診器という林寛之先生が、研修医たちをサポートします。

腰の激痛は脳の病気?

●患者さんの様子
原さとみさん38歳、広告代理店勤務。昨夜、飲み会がありました。

お酒はあまり飲めず、少し飲むと頭がガンガンするタイプです。昨日の飲み会でも途中で頭が痛くなりました。

酔った部下を探しに行ったところ、廊下で倒れていてそれを起こそうとしたとき、一緒に倒れ込んでしまいました。

その時、ゴツという音がしたような気がします。家に帰り少し休んでいると、首の後ろが痛みました。

翌朝、腰が痛くなり、少し休んでいれば治るかと思い寝ていましたが、救急車をよぼうと思うくらい腰が痛くなり、タクシーできました。

【患者原さとみさんの基礎データ】
・体温 36.5℃
・血圧 150/90
・脈拍 80回/分
・呼吸数 20回/分
・酸素飽和度 98%

●ER(救急処置)の基本
①診断がつかなくても手を動かす
②命を失う病気を考える
③よくある病気も考える

●運びこまれたら、命に関わる病気を
除外診断していくことが大切です。

必要なことは「さるも聴診器」
さ:酸素
る:ルート確保、採血
も:モニター
ちょう:超音波
しん:心電図
き:胸部レントゲン(ポータブル)

大動脈解離を疑い超音波エコーで調べたが、裂けた内壁が見えなかった。

子宮外妊娠を考えたが、問診によリ妊娠していないことがわかった。

【患者の追加データ】
・偏頭痛持ち、ステロイドを飲んだことない
・食事は忙しくて、とれたり取れなかったり
・お酒はあまり飲まずタバコも吸わにない
・アレルギーなし、生理は順調、結婚している
・腰がすごく痛い
・腰を押すとすごく痛がる

ファーストカンファセンス

【見逃してはいけない重篤な病気】
①椎体硬膜外血腫・・体質や薬の服用などで血がとまりにくい人が外傷で発症することが多い

②急性膵炎・・アルコールの飲み過ぎや胆石で起きる膵臓の炎症。みぞおちや背中に激痛。

③腰痛圧迫骨折・・外的な圧迫により腰椎が潰れる。高齢者に多く、くしゃみや尻もちで起きることも。

【よくある病気】
①尿路結石
②腎梗塞
③急性腰痛症(ぎっくり腰)
④腰痛ヘルニア

上記は、性別、年齢や、生活背景などにより病気の頻度が変わるので、絞り込んでいく。

腰痛ヘルニアの可能性をチェックするため、下肢伸展挙上テストを行ったが、痛がらなかったので可能性はない。

セカンドカンファレンス

①椎骨脳底動脈乖離
脳へ血液を送る血管が裂け、頭や首に痛み意識障害や神経障害を起こすことも

②大動脈乖離
胸部の大動脈解離の可能性が残る

最終診断・・くも膜下出血

患者は、くも膜下出血でした。くも膜と軟膜の間で出血し突発的な激しい頭痛をおこす病気で、頭痛が発症したときのことを鮮明に覚えている。

ポイントは移動する痛み。頭から腰へ移動する痛みで絞り込んでいくと「大動脈解離」と「くも膜下出血」が残りました。

CTの待ち時間の間に、ケルニッヒ徴候を調べたら陽性でした。ケルニッヒ兆候は、ひざを90度~135度まで一気にのばした時痛くて伸びない場合と陽性と判断します。

そのあとにCTを検査して、くも膜下出血が確定。

くも膜に出血した血液が、髄腔の中を入り込んでいき流れ落ちて炎症を起こしていました。

くも膜下出血は、最初の受診で見つかると9割が社会復帰できますが見逃され再発すると、5割が寝たきりになる病気です。

くも膜下出血の診断は問診が命。うちの専門ではないと言う「ウチじゃない科」の医師にだけは、絶対にならないようにと、林先生からのアドバイスがありました。