腰痛で歩けない程なのに、整形外科で診断してもらっても「骨には異常ありません。」といわれ、拍子抜けしてしまった方も多いのはないでしょうか。

実は、私がそうなんです。そのような原因のない腰痛の人は、腰痛全体の85%もいて「非特異的腰痛(腰痛症)」といわれています。

残りの15%は、骨や脊椎などの異常、末梢神経や脊髄などの神経障害など、何らかの原因がある人です。

腰痛

また、非特異的腰痛のうちの7割(腰痛全体の半分にあたる)の人は、「ストレス」などの心因的なものが原因となっているそうです。

腰痛は、尿路結石や膵臓病などの内蔵の異常が、背中や腰に痛みとなって現れている場合もあるので注意が必要です。

また、腹部大動脈瘤などがある場合にも、背中や腰に痛みとなって現れてきます。この場合には、命に関わってくるので早急に治療が必要となります。

今回の患者さんは、隠岐島で旅館を営む70歳のご主人。お孫さんの学芸会の練習相手をした翌日に、突然腰痛が始まったようなので、慢性的なものではないようです。

でも、日に日に症状が悪化しているということですから、ちょっと心配ですよね。腰痛といっても範囲が広いだけに、研修医たちも病名を絞りきれないようです。

ヒントは、牛肉とイクラ。こんなことで腰痛が治ってしまうのか・・という最新治療法も明かされます。

ドクターGこと、隠岐島前病院 白石吉彦先生が、悩める研修医たちを病名解明へと導きます。

腰の痛みは筋膜の痛み

●患者からの説明
腰痛のおこったのは3 日前、孫の学芸会の練習に付き合っている時に突然腰が痛くなりました。

その痛みは日に日に痛くなって、夜も眠ないほどの痛みになり病院にきました。

痛みは鈍痛といった感じで、じっとしていても痛みがあります。

痛みのおこる前日は、港の防波堤で3時間ほど釣りをしていました。鯵が150匹も釣れる大量でした。

歯が悪く、歯周病で2週間前に歯を抜きました。血圧は、高いほうです。

●バイタルデータ
70歳男性 旅館経営者 160cm 60kg
主訴:腰が痛む
・体温  36.2度
・血圧  160/108
・脈拍  97回/分

ファーストカンファレンス

●大動脈解離
全身に血液を送る太い血管が裂ける病気です。胸、背中、腹などに激しい痛みがあります。

背中と腰の痛み、高血圧、突然の痛み、安静時の痛みなどから大動脈解離を疑う。合わない点としては、3日前に発症しているのに歩いていられること。

●多発性骨髄腫
骨髄の細胞はがん細胞に変化して腫瘍をつくる病気です。60歳以上の男性に多く発症します。

肩甲骨の痛みがあることから疑うが、合わない点は、急には痛くなる病気ではないこと。

患者の痛みの様子を確認してみる
・3日前からだんだん痛む
・安静時痛(じっとしていても痛む)
・圧痛がある(押すと痛い)

これらの痛みから考えられる病気は・・・
・大動脈瘤
・悪性腫瘍の骨転移(肺がん、大腸がん、前立腺がん
・代行麻薬切迫破裂
・腎梗塞
・尿路結石(痛みは上から下へ移動する
・急性腰痛症(ぎっくり腰)

筋膜疼痛症候群を疑う
筋膜性疼痛症候群は、筋肉を覆っている筋膜に癒着がおこり痛みを発症します。寒い時、動かないとき、寝違え、肩こり、ギックリ腰、五十肩なども筋膜の癒着が原因と言われています。

この癒着に画期的に効く「生理食塩水筋膜リリース」という治療法があります。

超音波診断装置で筋肉の状態を調べて、癒着した筋膜の間に生理食塩水を注射して癒着を剥がします。

筋膜の癒着が原因だった場合、この治療で10の痛みが0から1近くになります。

骨や神経などの病気が原因の場合、筋膜リリースを行っても痛み10は10のままです。

骨や神経などの病気で筋膜が癒着していた場合、痛み10は5、6になりますが、また10の痛みに戻ってしまいます。

●来院時の検査と治療
・CT画像検査・・異常なし
・手足のしびれ・・左手の小指側 感覚障害があり
・心音・・・異常なし

筋膜リリースの治療を行ったとろ、痛みが5、6になったとの事なので、2,3日様子を見てもらうことにした。

●2日後の再検診
前回の診察から帰宅し4時間後、痛みが弱まったため、再び孫の付き合いで学芸会の練習をしたところ、再び激痛がおこる。

診察時に、左手を頭の後ろにつけている格好をしていた。左手を頭の後ろにもっていくと痛みが和らぎ、腕を前におろすと痛みが酷くなるとの事。

最終診断

頚椎椎間板ヘルニア

椎間板が飛び出して神経を圧迫して、背中、腰の痛みを引き起こしていた。

手を頭の後ろにもっていく格好は「ショルダーアブダクションリリースサイン」といい、手を挙げると神経がゆるみ、手を下げると神経が引っ張られるため。

このような格好で病院にくる患者さんは、頚椎椎間板ヘルニアでほぼ間違いない。

患者さんの痛みの様子から8番の頚椎のヘルニアが疑われた。通常8番だと肩甲骨の下あたりに痛みがでる。

腰痛は、筋膜の繋がっている腰痛部分の痛みも引き起こしていたためと推定できる。

確定診断のため頚椎部のMRIをしたいのだが島にはMRIがないため、エコーをあて神経ブロック注射を実施して確かめる。

8番神経にブロック注射をした15分後、痛みがまったく消えていたため、頚椎椎間板ヘルニアと確定。

患者さんは、ブロック注射での治療を半年間行って痛みが消失しました。

ドクターーGからのアドバイス

島などの病院では、設備もない状態の中で、あらゆる病気に対応しなければなりません。

そのようなときには、患者さんと相談しながらやっていける総合診療医が必要になります。

患者さんが何を求めているのか、そこで自分に何ができるのか、自己実現と社会貢献の両立を考えられる、医師になってください。