定年退職してから農業を楽しむ人が増えています。自然の中で汗をかきながら農作業、心も体もリフレッシュされますよね。
今回の患者も、そんな農作業が好きな61歳の男性です。
週末になると夫婦で、都内の自宅から1時間離れた知り合いの農家に通って、コメ作りの手伝いをしています。
3日ほど前から、体に熱っぽさとだるさがありましたが、その日は無理をして農作業をしていました。
お昼にはおにぎりを食べ休憩した後、午後の作業をしていたところ、意識がもうろうとなり倒れて救急車で運ばれてきました。
CTをとったところ、肝臓に影がありました。そして血液培養検査では、血中に腸内細菌らしきものが・・・。はたして、患者の病名はなんなのでしょうか。
ドクターGこと水戸協同病院 矢野晴美先生が、病名解明へと導きます。
CTの影は肝膿瘍、血中には腸内細菌クレブシエラ
●患者のバイタルデータ
・血圧 124/66
・脈拍 81
・呼吸数 16
・体温 36.4度
患者のCT検査の結果、多発性肝膿瘍であることが判明。また、血液中に腸内細菌であるクレブシエラが発見されました。
肝膿瘍を発症したのは、腸内にいるはずのクレブシエラが、なんらかの経路で肝臓の中に侵入したことが原因です。
腸内細菌が血液に侵入した経路として、研修医たちは以下のルートを疑いました。
①糞線虫症
・・寄生虫が腸管に入って腸管を破り血中に紛れ込み肝臓に運ばれた
②寄生虫感染
・・腸内の寄生虫が腸管を傷つけ血中に紛れ込み肝臓に運ばれた
③感染性心内膜炎
・・歯茎などから細菌が血中に入り込み、心臓の中で増殖し持続的に細菌が血液の中に入り続ける
糞線虫症は日本では奄美大島や沖縄などに多く、また寄生虫は国内では考えられないことから、旅行歴のない男性が寄生した可能性は低いと判断されました。
また、感染症心内膜炎については、心臓エコー検査の結果、問題ないことがわかりました。
肝臓に血液が入り込む3つのルートから原因を追求する
肝臓に血液が送り込まるルートは、以下の3つ。
①胆管(胆のう)
②肝動脈(心臓)
③門脈(消化管)
胆管ルートは、CT診断の結果胆のうに異常は見つかりませんでした。また、超音波検査で心臓の問題も発見されません。
患者に問診したところ、食欲、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢や便秘の異常もありませんでした。
最終診断は、大腸ポリープによる多発性肝膿瘍
最終的に残ったのは門脈ルートです。確認するため大腸内視鏡を行ったところ、3つのポリープが発見されました。1つは、初期の大腸がんでした。
腸内細菌クレブシエラは、大腸がんで傷ついた腸管から血液中に侵入し肝臓に到達、多発性肝腫瘍を発症していたのです。
患者は、抗菌薬でクレブシエラを治療した後、大腸がん、ポリープを摘出手術を行い、無事退院していきました。