60歳を越えるようになると、ひざ、腰、肩など、ほうぼうの関節が痛くなってきますよね。

病院へ行ってレントゲンをとっても、異常が見つからず「年のせいもありますし・・」と言われてがっかりすることもあります。

今回の患者さんも、そんな悩みを抱えていました。

レントゲン

71歳になる女性は、3、4年前から腰の痛みに悩まされていました。

整形外科を受診したところ、レントゲンで骨粗鬆症による圧迫骨折が見つかりました。

「骨が弱くなっていますが、自然に治ります」との診断だったので、様子を見ていましたが、治るどころかどんどん痛みが増してきます。

痛みに我慢できず、いくつかの病院へ行きましたが、どこの病院でも「年なのである程度の痛みはしょうがない・・」と言われてしまいます。

そして、最期にたどり着いたのが、千葉大学医学部 生坂政臣先生の病院でした。

患者さん症状 圧迫骨折の診断で痛みは増すばかり

3年くらい前から、腰が痛くて病院へ行ったら、2か所の圧迫骨折があると診断されました。

骨粗しょう症もあり自然に骨折したものといわれ、年のせいもあるので仕方がないといわれました。

痛み止めと骨粗しょう症の薬を処方してもらい、痛くても筋肉が弱ってしまうので歩くように言われました。

薬のしっかり飲んで、毎日20分歩っていますが、ぜんぜんよくなりませんでした。痛みが強くなっていたので、ほかの病院へも行ってみましたが、同じ診断でした。

痛みが強くなるのは、立ったり歩いたり、動いているときですが、寝ているときには楽です。腰ほどではないけど、肩とか手や足もつらいです。

左肩が痛くなって、それから左足も痛い状態です。時々、怖い夢を見て目が覚めることがあります。

●患者のバイタルデータ
・71歳 主婦 166㎝ 50㎏
・主訴 腰が痛くて痛くて
・体温 36.4度
・血圧 130/78
・脈拍 60回/分

原因は骨、筋肉、内臓、関節以外が原因

骨粗しょう症による圧迫骨折の場合、患者さんの3分の2は痛みを訴えません。骨の変形が少しづつ進むの場合は、神経を圧迫しないのであまり痛みを感じないないのです。

患者の症状に対して研修医が下した診断は、多発性骨髄腫、リウマチ性多発筋痛症などと骨や筋肉に関する診断でした。

多発性骨髄腫は、骨の中にある骨髄がガン化し骨を溶かす病気で、主訴として腰痛を訴える人が多くいます。痛み、骨粗しょう症の原因ともなります。

リウマチ性多発筋痛症は、全身に痛みのでる原因不明の高齢者に多い病気です。しかし2週間で痛身が増し、以降症状の悪化しなくなる病気で、3年痛む患者の症状と合いません。

骨、肌肉以外に腰痛を引き起こすものとして内臓がありますが、患者は動いたときの痛み(労作時の痛み)を訴えているので、安静時にも痛む内臓が原因とは考えにくいです。

また、関節の痛みが原因の場合は、朝起きたときに強く痛むので、朝起きたときの痛みはないという患者の症状とあいません。

原因は骨、筋肉、内臓、関節以外が原因

痛みの度合いが強くなってきていることから、痛みの閾値が上がてきている可能性があります。そこで脳の病気に焦点が絞られました。

あげられた病名は、
・身体表現性障害(疼痛性障害)
・重症筋無力症
・筋ジストロフィー
・ジストニア
・進行性核上性麻痺

問診を進めると、7、8年前より臭いに鈍感になる、怖い夢を何度も見ていることがわかりました。

そこで、でてきた病名は
・大脳基底核変性症
・レビー小体型認知症
・パーキンソン病
です。

レビー小体型認知症の場合、8年前から発症したとすれば、認知症の症状がかなり進行しているはずなので、可能性は低いと判断されました。

最終診断 パーキンソン病

パーキンソン病は、神経伝達物質の一つであるドーパミンが減少する事で起こると考えられています。

ドーパミンは運動に関係するホルモンで、意欲、快楽などを調整しています。また、ドーパミンが少なくなると、痛みを抑制する回路が弱くなり痛みを増幅させることも知られています。

また、嗅覚障害、味覚障害、自律神経に障害、筋肉のこわばり、痛み、手足の震え、動作の緩慢、姿勢保持障害などの症状があります。

患者に歩行させ歩く行為に集中させたところ、手に安静時振戦(ふるえ)が見られました。

これらのことから、患者の最終診断として「パーキンソン病」とされました。

今回、腰痛が主訴とした患者さんの原因は、「脳」にありました。

「診断が難しいときには、まったく異なる視点からの発想、推論が大切です。診断するには総合的なアプローチを心がけてください」と、ドクターgからのアドバイスがありました。

このような診断をしてくれる総合ドクターが、どこにでもいてくれると嬉しいですよね。

腰痛で診察を受けると、レントゲン、湿布、痛み止め、電気のセット診療。身体に触れることもなく、いつも同じ診断、話す内容まで一緒の医師を見ると、本当に心配になってしまいますよね・・。