40歳を過ぎると、人の運命や健康などの山場が、10年毎にあるような気がします。この節目を乗り切れば、とりあえず10年は大丈夫のような感じがしますよね。

今回の患者さんは、建築デザイン会社に勤めるバリバリ働き盛りの44歳のお父さん。

連日、忙しい毎日を過ごしますが、健康には十分に気をつけており、休みの日には娘さんとウォーキングで体調管理をしています。

ウォーキング

しかし、ある日ウォーキング中に、突然倒れてしまいます。

40代で起こったはじめてのトラブル。本人は、倒れたこともあまり記憶にないようで、「眠っていただけだろ・・」と言います。

心配した家族が病院に連れていくと、おう吐、だるさ、などの症状があることがわかりました。

はたして彼を襲ったのは、重大な病気なのでしょうか。

藤田保健衛生大学病院 山中克郎先生が、その診断を導きます。

ウォーキング中に突然の意識喪失 それを覚えていない

44歳男性、建築デザイン事務所勤務。大きな仕事が入り込み、毎日忙しくストレスの日々を過ごしてます。

近頃、体がだるく、ある日娘さんとウォーキング中に突然気を失って倒れてしまいます。

足がつりましたが、気にせず始めました。娘さんが気がつくと倒れてましたが、本人は「寝ていたんだろう」と倒れたことも気がつかない様子です。

娘さんの話では、3分か5分くらい倒れていたらしく意識が戻ったら何事もないように行動していたそうです。ただ、お父さんは、眩しそうな感じでした。

今までそういうことはなく、頭をぶつけたこともありません。帰宅してからは、とてもだるい感じでした。

その後、休日出勤して仕事をしていたら、急に気分が悪くなり吐き気がしたそうです。

風邪っぽいので、娘さんからうつったと思います。

病歴は、1年前に胃潰瘍になり、クスリで治療しました。1週間前に、偏頭痛のように頭が痛くなりました。倒れた日の夜、枕の高さが合わないと言い出しました。

娘さんの話しによると、お父さんは倒れるちょっと前に、首の後ろを抑えていたような気がしたとのことでした。

ファーストカンファレンス

大動脈乖離
大動脈の内側の膜がさけ、血流が阻害される病気。胸、背中、腰に激しい痛みが起きます。一時的に血液の流れが阻害されると失神します。

心筋炎
ウィルスや細菌の感染により心臓の筋肉に炎症が起こります。発熱やせき、胸の痛み、不整脈が起こり失神することもあります。

低ナトリウム血症
水分の過剰摂取によりナトリウムの濃度が薄まってしまい、筋肉が痙攣したり意識障害が起こります。

【失神と意識障害】
失神の場合には、数分で意識が完全回復します。意識障害であれば、数分で戻ることはありません。今回の患者さんの場合には、失神のようです。

●その他の検討診断
大動脈乖離(椎骨動脈乖離)
脳に血液を送る椎骨動脈の内部の膜が裂ける病気です。首の痛み、頭痛、手足のしびれ、感覚の異常がおこります。

サルコイドーシス
主に肺に細胞のかたまり(肉芽種)ができる病気。目や心臓に肉芽種ができることもあり、目のかすみや不整脈などの全身に症状が現れます。

感染性心内膜炎
心臓に膜や便に細菌が付着し繁殖する病気。倦怠感が強く、弁の間に塊ができて一時的に失神も考えられます。

【偏頭痛】
偏頭痛は10~20代からなるもので、40代になって突然、偏頭痛になることはありえないそうです。

ですから今回の頭痛は、別の病気が原因と考えるのが自然です。頭痛の原因は、脳の髄膜か、脳の血管に何かが起きていたと考えられます。

最終診断・・くも膜下出血

最終診断は・・・くも膜下出血でした。7日前に頭痛、失神する前に頭痛があったとすると、7日前の頭痛は、警告出血と考えられます。

くも膜下出血は、「突然バットで殴られたような人生最大の痛み」と言われていますが、弱い痛みのこともあるそうです。

くも膜下出血は、脳を保護するくも膜と軟膜の間に出血が起こります。軽度、重度の頭痛、吐き気やおう吐、40~60代に起こりやすい病気です。

●治療
CTの検査で、くも膜下出血を確認し手術を受けました。出血も少なかったため順調に回復し、仕事やジョギングもできるようになりました。