胃がんで亡くなる人は、年間5万人いると言われています。がんは、早期発見、早期治療すれば治癒率は高くなります。

しかし、発見が遅れてリンパ節へ転移してしまうと、治療は厄介になってきます。目に見えるがんは、比較的切除しやすいのですが、問題は目に見えないガンです。

がんが、リンパ節に転移してしまった場合には、リンパをどこまで切除すればいいのか判断が難しくなります。

胃がんの治療で、世界屈指の腕といわれる医師がいます。彼の名は、笹子三津留(ささこみつる)医師、63歳。

1978年、東京大学医学部卒業後、1987年 国立がんセンター病院に勤務。常に、最前線にたち、がんと闘い続けてきました。

胃がんの手術は、3000例を超えます。彼は、どんなに難しい進行性のがんであっても引き受けてきたそうです。

胃がんのリンパ節転移は、どこまで転移しているかの見極めが重要となります。どこまでのリンパ節を切除すればいいか・・笹子医師は、その見極めを指先で判断するといいます。

2008年 それまで勤めたきた国立がんセンター病院の副院長を定年退職前にやめ兵庫医科大学教授に就任し現場へ。「一人でも多くの命を救いたい」、と地元に戻り治療を続ける道を選びました。

笹子三津留先生は、がんの領域において特に優れた業績を挙げた学者・研究者に対し贈られる、「高松宮妃癌研究基金学術賞」を平成25年度に受賞しました。

●兵庫医科大学病院 連絡先
〒663-8501 兵庫県西宮市武庫川町1−1
0798-45-6111



今、病院では年間150件の手術をこなしている。その患者の半数は他の病院では無理だという人ばかりである。

ガンと向き合って35年、一つの確信がある。それは「がんに絶対はない」ということ。

がんが取りきれなかったのに治った人もいるし、絶対に治らないということも、絶対に治るということもできない病気で、100%も0%もない病気だという。

胃がんの難しいところは、リンパ節の切除。1つでも残れば転移が進行することになる。

彼は、指のひっかり具合でリンパの転移を見極め手術をする。ステージⅢCの5年生存率は50.6%という驚異的な数字を示す。

彼は、「手術でできることと、できないこと」を患者が納得するまで丁寧に説明する。リスクは1%以下のこともしっかり話す。

「私に任せれば助かりますよ、なんて絶対に言えない」それでも丁寧に患者と話して、共に闘っていく姿勢を貫いていく。

手術をしているときは、誰のお腹かってことはすべて忘れる。手術中は、おなかの中の臓器の世界で、すべて判断する。

彼の転機となったのは、父の末期の肝臓がんが見つかったこと。医師になって3年目。当時は患者には告知をしない時代。

散々悩んだが、最後まで言えなかったという。その思いが、患者に徹底的に向き合うきっかけになった。

一番教わることが多いのが、一人ひとりの患者さんから。だから、逃げないで正面から向かい合う大切だという。

彼の宝物は、患者からもらった手紙である。30年間のすべての手紙をとってあるといい、それを見るたび医者になってよかっと思う。

今でも忘れない患者がいる。長年連れ添ってきた老夫婦。夫の胃ガンは厳しい状態で手術したが、膀胱がんが再発した。

彼は、もはや手がないことを伝え、「最後の時間を有効に使いましょう」と提案した。

老夫婦は、その言葉を受け入れすべての治療をやめた。1年後夫は亡くなった。その後、妻から感謝の手紙を受け取った。

そこには、抗癌剤をやめた時点から内緒で、ワクチン注射を使ってたことと次の言葉が綴られていた。

「おっしゃるように何も効きませんでした。でも、私達凡人は、何かよくなる具体的なものがあると安心できるのです。先生には、恥ずかしくて申し上げられませんでした。」

「私は、夫にワクチンを打つため一生懸命に注射の練習をしました。」彼は、その手紙を見るたび今でも涙する。

「ガンという病を抱えた時、人は何を希望に生きるのか。その中で、医師には何ができるのか・・」今もその答えを探しているそうです。