人のあらゆる感情を表現することができる声。

やさしい声、怒った声、うれしく弾んだ声、がっかりした声、泣き声など、声は、高さ、アクセント、強弱、間の組みあせで無限の感情を表現することができます。

声の応援

しかし、その声を病気や事故によって失ってしまう人が、世界中にたくさんいます。

声を失った人が自分の声を取り戻せることができたら・・・コンピュターの技術を使って声の再現に挑んでいるのが、国立情報学研究所 准教授の山岸 順一さんです。

声を失う病気は沢山あります。咽頭がん、甲状腺がん、食道がんなどにより、声帯を切除しなければならない人、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や筋ジストロフィーにより、筋肉が弱って声を出せなくなる人もいます。

筋萎縮性側索硬化症は、手足、のど、呼吸にかかわる筋肉がだんだん痩せていき力がでなくなってしまう病気で、天才的な物理学者である、ホーキング博士も筋萎縮性側索硬化症で声を失い、人工合成の音声を使って会話をしています。

サッカーJ2、FC岐阜の恩田聖敬社長37歳は、2014年5月に筋萎縮性側索硬化症(ALS)であることを告げられました。

それから1年半が経過し、進行はかなり早く、声がどんどん出づらい状態になってきたそうです。

「いつまでも“自分の声”で会話したい」恩田社長は、山岸さんの研究所を訪ねます。

そして、自分の大切な個性である自分そっくり声をコンピュータで再現できる「声のクローン」づくりを依頼します。

山岸 順一さんの声の再生への挑戦

山岸さんのつくるコンピュターの声は、これまでのような合成音声とは違います。アクセントから、声の高さまで、ほとんど自分の声と同じように表現してくれます。

しかも、クローン音声は、喜びや悲しみ、怒りややさしさなどの感情まで表現することができます。

実際、山岸さんの作ったクローン音声を使っているALS患者の女性がいます。スマホやタブレットに入力すれば、すぐに自分の声で再生することができます。

あらかじめ、生活に必要な質問や会話も登録されているため、とても便利だそうです。

山岸さんが、声の合成について研究を始めたのは、今から10年前。イギリスのエディンバラ大学にいた時です。この大学は音声合成の研究で、世界のトップを走っている研究機関です。

ある時、女子学生から「これ病気で声を失った人に使ってもらったら・・」と言われたことが、きっかけで研究を始めました。

そっくりな声を作るには、まず、多くの人を集めて声を録音し、平均声をつくります。

さらに、その人固有の特徴的な「声の高さと強さの波形を数値化にして、その平均声にのせることで創りだしていきます。

そして、恩田さんへ声のクローンを届ける日がきました。タブレットで入力された文章が、自分の声として再生されます。

一緒にその声を聞いた、恩田さんと奥さんは、本当にうれしそうでした。

「人と反すのが、自分の仕事スタイル。自分の声があれば、もう少し仕事ができそうです」と語る恩田さん。今では、子供と一緒にこの機械を使って遊んでいるそうです。

参考番組:TBS「夢の扉」『そっくり声、失った声がよみがえる』10月18日放送