遺伝子の研究が、とてつもないスピードで進んでいますが、人類は今、ゲノム編集により「神の領域に踏み込んだ」と言われています。
ゲノム編集とは、遺伝子を操作する技術です。
植物の品種改良など、これまでも多くの遺伝子操作は行われてきましたが、従来のものは突然変異と偶然性を利用したもので、100年、200年と長い時間がかかりました。
しかし、最新の遺伝子操作技術「ゲノム編集」は、それとはまったく違うレベルにあります。
遺伝子の特定の部分を、短時間で正確に切り取ったり入れ替えすることができる技術なのです。
7月30日放送「クローズアップ現代」で、ゲノム編集の最前線を紹介してました。
ゲノム編集で行われる品種改良
例えば、筋肉量の成長を抑える役目のミオスタチンという遺伝子を、ゲノム編集で取り去ることができます。
これらの操作は、受精卵の段階で行われ、操作された受精卵は誕生し成長していきます。
ミオスタチンを切りとられてた牛は、筋肉の成長が抑えられないため2倍の筋肉量をもった牛に成長します。
このようにゲノム編集は、すぐに結果として反映され、改良された遺伝子は引き継がれていくという特徴があります。
ゲノム編集は、植物、魚、動物、すべての生物に適応することができます。
日本では、収穫量の多い米や、腐らないトマト、養殖しやすいマグロなど品種改良のプロジェクトが始まっています。
ゲノム編集は、人間に近い猿でも行われており、いろいろな病気の猿をつくりだし、薬の効能の試験が行われています。
つまり、人間が生物を自由に作り変えることができ、人間さえも思うようにつくり変えられる時代になったと言えます。
実際、中国では、人の受精卵でゲノム編集を行ったという研究論文が発表されており、世界の科学者を2分する大きな論争になっているようです。
ゲノム編集の医療分野への応用
ゲノム編集は医療の分野に活かせば、これまでにない治療効果を上げると期待されています。
米国ボストンにあるブロード研究所では、人の遺伝子2万をすべて自由に切断し編集できるようにするための研究が行われています。
ゲノム編集によりエイズ患者の免疫力をアップさせる試みが行われています。
患者の血液を採取し、血液の中の白血球にエイズウィルスが取り付かないよう遺伝子をゲノム編集し体に戻すことで白血球の機能を取り戻し免疫力を高めます。
その治療を受けた患者の免疫力は、薬が必要ないレベルまで改善しました。
ゲノム編集の大きな課題
人が自在に遺伝子を操作し、新たな生物をつくりだすことができるこの技術を食料や医療の分野に限って行うのであれば、人類に非常に有能な技術であり、明るい未来をつくることができます。
しかし、まった違った生物を自由に生み出したたりすれば、食物連鎖で成立している地球の生物は崩れ去ることになります。
また、それが人間に利用され、人類そのものを改良してしまう可能性を大きく秘めています。そのルールをいかに構築し、守ることができるかが問われる時代になっています。
ips細胞の山中伸弥教授はこのように語ってました。
「この技術はips細胞など足元にも及ばないほど可能性のある技術です。ただ、どんな科学技術でもいい面と、悪い面があります。ゲノム編集のいいところだけ伸ばせば、人類に多いに貢献しますが、悪い面を伸ばせば大変なことになる。
5年前までSFの世界だった人間の設計図の書き換えが可能になった今、科学技術者だけでなく生命倫理、世界の人を巻き込んでの論議が必要なのです。」