胃を摘出すると、胃の貯留機能の失われるために、ダンピング症候群と呼ばれる症状がおこります。
ダンピング症候群とは、胃を切除してしまうと食物を胃に溜めることができず、小腸へまっすぐ直行してしまうため起こる色々な症状です。
食事をすると、冷や汗や動悸、めまい、脱力感、さらに、腹痛、下痢、悪心、嘔吐などが起こり、食欲があるのに、食べられない・・・などの症状がおこります。
でも、今回の患者さんの場合には、胃の摘出でもないのに「食べられない」状況になってしまったようです。
患者さん男性(62)は、高校の教師をしてましたが、定年退職してから執筆活動をはじめ、小説家デビューを目指して頑張っていました。
食欲は昔から旺盛で、ガツガツなんでも食べる大食漢。しかし、最近、食欲はあるんだけど、食べれないようになってしまったようです。
最近、高校の教え子が出版社の文学賞を受賞し、先を越されたことに少ならからずショックを受けていたようですが、まさか、それが原因とは思われません。
ドクターGこと、沖縄県立中部病院 金城光代先生は、患者の意識していないある症状に気が付き、意外な病気を診断しました。
はたして、研修医たちは、その症状に気が付き病名に辿り着けるでしょうか。
お腹がはってなぜか食べられない 無意識の症状の病気とは・・
●主訴
吉田光雄さん62歳。1週間位前よりお腹が張っています。お腹の痛みはありません、便秘、吐き気もありません。
時期はよくわかりませんが、1ヶ月前頃からだと思います。今は、ほとんど食べれなくなってしまいました。
1ケ月前には、大食漢でパスタやお肉が大好きで3人前食べるときもありました。
来院20日前。食欲はありましたが、いつもの半分の量ですぐに満腹になってしまい、残すようになりました。
疲れやすくゴロゴロして、どこにもでかけなくなりました。
暑がりになって、夜中に寝汗をかき、何度も目がさめてしまいます。この頃、食べてないのにもかかわらず太ったようで、洋服や靴がきつくなりました。
来院1周間前。部屋を片付ける気力もなく、指が痛くなり、手書きからパソコンに変えました。なんとなく、タバコも吸わなくなりました。
ほとんど食べれなくなり、ゼリーのみ食べているのですが来院前に体重を測ったら、2kg増えてました。
●患者の基礎データ
第一カンファレンス
・肝硬変
アルコールやウィルス感染などで、肝細胞が壊れ硬くなる病気。
症状は、倦怠感、食欲低下、腹水、むくみ、黄疸が起こります。
患者のお腹の張りは腹水で、その他、食欲低下、倦怠感なども説明できます。
・ネフローゼ症候群
体内のタンパク質が尿と一緒に漏れ出る。
肺、腹部、足に水がたまる症状から考えられる。
●お腹の張りの原因として考えられること
①腹水がたまる
②腸が詰まる
③臓器自体が腫れる
腸管がつまっていることは、下痢、便秘、腹痛、吐き気もないので考えらない。
消化管に問題がないとすると、腹部の腫れは腹水かほかの臓器が腫れて圧迫しているかのどちらかになります。
●診断でわかったこと
①お腹の張りは、肋骨下左側。全体的な張りではない。
②診療室に入ってきたとき、診察のため横になったとき息をするのもつらそうだった。
③手をみたところ、人差し指にオスラー結節ができていた。
最終診断
感染性心内膜炎でした。お腹の張りは、脾臓が腫れて胃を圧迫していたため。
さらに、心臓や肺がうっ血し、息苦しい状態で心不全を起こしていた。
そのため、血液を循環させる力が弱まり血管内に水が増え足にもむくみが生じていた。
心不全の原因は、いくつもあるが、患者の発熱に着目。さらに、脾臓の腫れを誘発する病気として原因を絞込み、感染性心内膜炎と診断した。
脾臓は、菌を処理するため活発に働き、腫れがおこっていたと思われる。原因となった菌は、緑色連鎖球菌 ゲメラでした。
緑色連鎖球菌 ゲメラは、口の中や消化管に常在する弱い菌でまれに、心膜の弁につき、ゆっくり繁殖します。
患者の主訴は、食べれないですが、診察室に入ってきたときは呼吸が苦しく息ぎれ状態でした。
そのときの判断を、しっかり捉えておくことが大切とのことでした。