50代頃になると、いろいろな悩みが次々とでてきますよね。
自分の体調不良に加え、親の介護、子供の学校や就職、旦那さんの退職やリストラなど、息つく暇もないほどトラブルが襲ってきます。
今回のドクターGで紹介される患者さんも、まさにそんな状況の真っ只中にあるようです。
通販会社に勤める50代の女性、更年期であまり体調がよくありませんが、なんとか頑張って義母の介護をみてきました。
そんな折、東京で就職した息子が会社を止めて、家に戻ってきてしまいます。
仕事もせず毎日ブラブラしている息子とは、毎日のように言い争いをするようになってしまいました。
そんな毎日に疲れもたまり、いつしか頭痛や不眠がおこるようになり、ついには会社に行くこともできなくなってしまいます。
彼女の異変に気がついたのは、義母の訪問診療にきていたドクターG。すぐに彼女に診療することをススメます。
不眠と頭痛に悩み、音楽を聞くと症状が和らぐという女性の病名は、いったい何なのでしょうか。
ドクターGこと、本輪西ファミリークリニック 草場鉄周先生の診察を紹介します。
うつ症状の原因は甲状腺機能低下症?
女性に病院にきてもらい問診したとこと、以下の症状を訴えました。
●患主な症状
倦怠感、両脚のしびれと痛み、抑うつ症状、不眠(入眠困難)、食欲低下、体重減少、頭痛(緊張型)
バイタルデータは問題はなく正常値です。
●バイタルデータ
・体温 35.8℃
・血圧 112/56
・脈拍 70回/分
・呼吸数 16回/分
これらの症状に研修医が下した診断は、「甲状腺機能低下症」でした。
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌か低下し、体のさまざまな活動が低下してしまう病気です。
体のむくみ、体重増加、食欲低下、眠気、倦怠感のほか、気分が落ち込む、わけもなく悲しい、生きる希望がないなどの「抑うつ感」もでてきます。
確かに、患者には「抑うつ感」など甲状腺機能低下症の症状がありますが、脚のしびれ、体重の減少など説明できないところがあります。
そこで時間的な経緯で症状を整理してみました。
●時間的な経緯から原因を探る
①8ケ月前・・両もものしびれ
②3ケ月前・・息子が東京から戻りストレス、抑うつ症状
③2か月前・・足の痛みに加え、不眠、頭痛が起こる
④1週間前・・心療内科を受診し、抗うつ薬と睡眠導入剤を処方される
⑤数日前・・・症状がさらに悪化してしまう
このように時間的な経緯で症状を整理してみると、原因がうつ症状にあるのではなく別な病気があり、その病気が原因となりうつ症状を引き起こしたと考えるのが正解となります。
また、うつ症状を改善する薬を飲んだところ症状が悪化してしまう、ということもポイントになります。
病名は「むずむず脚症候群」
最終的に、患者の病名は「むずむず脚症候群」と診断されました。
むずむず脚症候群は、体のあらゆる情報がブロックされず脳に流れ込んでしまうことにより起こる病気です。
通常ブロックされるべき情報が脳に到達してしまうため、脳が感覚情報でいっぱいになってしまいます。
体の動きがほとんどなくなる安静時や寝ているときでも、体の情報がどんどん入ってきてしまうため眠れなくなってしまうのです。
夜中歩いたり寝る前に音楽を聴くと、ほかのことに神経が集中するため症状が和らぐ傾向があります。
むずむず脚症候群は、ドーパミンの減少が起因しているとされます。
特徴的なものとして、周期的四肢運動があります。寝ているときに手足が定期的に動く症状で、むずむず脚症候群の患者の約8割にみられます。
ご主人の協力で、患者さんが寝ているときにビデオ撮影してもらったところ、30秒毎に足が動いていました。
患者さんの症状は、以下のような経緯で起こったと考えられ、最終的に「むずむず脚症候群」と診断されました。
①何らかの原因でドーパミンが不足
②むずむず脚症候群を発症
③家庭内のストレス
④うつの症状を発症
⑤抗うつ薬(パロキセチン)を処方される
⑤ドーパミンがさらに減少
抗うつ薬には、ドパーミンの分泌を抑える作用があるため、症状を余計に悪化させていたのです。
「ドーパミン作動薬」を処方することで、ドーパミンによる神経伝達が活性化、患者さんの症状は改善しました。
むずむず脚症候群の患者は、全国に400万人以上いるといわれています。もし、今回のケースと似た症状のある方は、診断を受けてみてください。