50歳も過ぎると、足先が十分に上がらなくなり、ちょっとした段差に躓いたり、転んだりしやすくなりますよね。

しかし、それが若い方だと、ちょっと心配です。今回、ドクターGで紹介する患者さんは、28歳の女性パテシェです。

ケーキ屋の店長として、忙しい毎日を過ごしていますが、最近ストレスのせいか体調が、あまり思わしくないようです。

ケーキ

体が思うように動かない、夜よく眠れない、足元がふらつき転びやすくなったなどの症状がでるようになりました。また、手が震えたり、妊娠でもないのに生理も遅れるなど、いろいろな症状があるようです。

一般的に、「転びやすくなる」原因として考えられるのは、脳の異常、神経の異常、筋肉や骨の異常、めまい、栄養失調、体力の低下などの病気です。

彼女の場合には、足のもつれの裏に、医師も気がつかない別の原因が隠されているようです。総合医として活躍する、地域医療機能推進機構本部 徳田安春先生が、研修医たちを導きます。

患者 影山ひなさん(28歳)の症状

●バイタルデータ
・体温 36.2度
・血圧 120/80
・脈拍 70回/分
・呼吸数 13回

2ヶ月前、近所にケーキの競合店ができ、店長としての責任や焦りもあり、「夜眠れない、胃の調子が悪い」などの症状がでるようになりました。

近所のクリニックに駆け込んだところ「精神的なもの」ということで、睡眠導入剤と胃薬を処方してもらいました。

薬が効いて、眠れるようになり、胃の調子もよく食欲がでるようになりました。

しかし、1週間位前より、ふらついたり、何でもないところで転びそうになる、などの症状がでるようになりました。

昨日は特にひどく、体が軽くぶつかっただけなのに、後ろにバタンとひっくり返るように倒れてしまいました。

また、1ヶ月前位から手が震えるようになりました。道具を使っているときは問題ないのですが、何もしてないときに手が震えます。

頭痛はありません。これまでに大きな病気、怪我、手術の経験もありません。家族は、両親ともに健康です。

生理は2ヶ月前からありません。妊娠検査薬で調べましたが、妊娠はありませんでした。生理は、ストレスがあると多少遅れたり早まったりすることはあります。

ファーストカンファレンス

薬剤性パーキンソン症候群
薬剤性パーキンソン症候群は、薬によってパーキンソン病のような症状をきたす病気です。

パーキンソン病は、脳の中にある黒質が変性して起こる病気で、動作の緩慢、手足の震え、筋肉のこわばり、バランスが取りづらいなどの症状が現れます。50歳以上の人に多く発症します。

患者には、歩き出しにくい、小刻みの歩行、振戦運動(手の震え)など、それらの症状があることから、薬剤性のものと診断されました。

しかし、パーキンソン症候群ではなく、若年性パーキンソン病の可能性もあります。バック・トー・ザ・フィーチャーのマイケル・J・フォックスさんは、30歳でパーキンソン病と診断されました。

パーキンソン病は、脳の黒質が壊れてドーパミンがつくれなくなる病気です。ドーパミンは、脳からの指令を伝える伝達物質で、体をスムーズに動かしたり、意欲を向上させたりする役目があります。

パーキンソン症候群は、ドーパミンは作られるのですが、なんらかの理由でドーパミンの伝達が阻害され、パーキンソン病と同じ症状を起こす病気のことをいいます。

患者さんの追加診察

・ピザ徴候がある・・姿勢反射障害のひとつで、座位で上体が傾いてしまう

・安静時振戦がある・・指先で丸薬まるめ運動(ピル・ローリング)という症状が見られる

・マイヤーソン徴候が見られる・・額を刺激すると瞬きが継続して続いてしまう症状がある

・筋トーヌス検査で筋肉の緊張がある・・肘の関節がスムーズに動かなくなる

これらの原因は、ドーパミンが正常に機能していないことを示しています。

・バレー徴候、指鼻検査は問題なし・・脳の機能に異常があるかどうかの診断をしたが問題なし。

・角膜観察問題なし・・銅が原因でおこるウィルソン病ではない(パーキンソン病と同じ症状がでる)

パーキンソン病か、薬剤性パーキンソン症候群であるかの診断

先生が問診で聞いたこと
①乳房が張ってないか、乳汁がでてないか
②手の震えは片側ずつ起こったのか、両手同じタイミングで起こったのか

患者さんからの答えは、「なんとなく乳が張っていて、2日前にはブラジャーの内側が汚れていた(乳汁がでてた)」でした。

また、手の震えが両手同時であることから、段階的ではなく一気に症状がでたと推測できる。

ドーパミンは、下垂体で作られる乳腺刺激ホルモン「プロラクチン」に対して「放出するな」という指示をだし、乳汁の分泌を抑えています。

しかし、ドーパミンが働かなくなったため、その抑制が働かなくなり、乳汁がでる、生理が止まるなどの症状がでていたと考えられます。

また、パーキンソン病の場合は、左右にある黒質が同時に壊れることはなく手の震えは片方から起こってくる。しかし薬剤性の場合には、全身に一気に作用するため両方同時に起こります。

これらのことから、原因は薬でありドーパミンをブロックする作用があり、さらに気分も良くなる薬が処方されていたと推測できます。

胃薬の中で、それらに該当する薬は、「スルピリド」です。「スルピリド」は、ドーパミンの作用を遮断することで、抗うつ薬や胃腸を改善し食欲を増進するなどの効能があるとして処方される、とてもいい薬でです。

しかし、個人差、用量、期間などにより、副作用としてパーキンソン病と同じ症状が現れることがあります。(スルピリド以外にも、ドーパミンを遮断する薬がたくさんあるそうです)

このケースのように、「パーキンソン病と同じ症状、手の震えが両側同時に起こる、月経が止まった、乳汁がでた」などの症状を説明できるのは「薬害性パーキンソン症候群」となります。

患者さんは、薬をやめてから約2週間で症状が完全に消え、元気に働いているそうです。

ドクターGからのアドバイス

「薬もリスクという言葉があります。需要なことは、薬剤性を疑っての問診を進めること。そのために体の中で起こっているメカニズムを理解して積極的に聞くことが大切です」

薬の副作用って本当に怖いですね・・。処方薬をもらったら、副作用の内容をしっかり確認して、それらの症状が見られたらすぐに医者にいくことを心がけてください。