今回の患者さんは、58歳の酒屋経営の男性。親から引き継いだ酒屋を元気に切り盛りしていました。
体力と腕っぷしの強さには自信があったのですが、最近肩が痛くて、今まで軽々と持ち上げていたビールケースが持ち上げられません。
58歳というと、五十肩の後半の時期ですから、五十肩かなと思い、病院を訪ねました。ドクターからリハビリの指導を受けて、続けていたのですが一向に改善しません。
はじめの診断から2ヶ月後、ドクターは男性のある異変に気がつきました。はたして、彼の病名は?
本輪西サテライトクリニック 草場鉄周先生が研修医たちを最終診断へと導きます。
肩の痛みの影に衝撃の病気
・2ヶ月前 診療
肩が痛いんで診察を受けにきました。大会を前に、趣味の卓球の練習のしすぎかもしれないそうです。
今まではビール2ケースでも、なんでもなかったのに、この頃は1ケースでも痛いということでした。
・診療
とりあえず痛み止めを打って湿布薬で様子をみることにしました。しばらく肩を休めて、リハビリとしてアイロン体操をやるように指導しました。
・2週間後
肩の痛みは少し和らいだのですが、携帯を落としてしまう様子にドクターが病院に来るように指示しました。
・その後の症状
肩の痛みが和らいだので卓球に行ったところ、ラケットを落とすほど、コントロールができない。
肩が重くだるい感じがとれない
日曜大工が得意だったのがのこぎりが切れない、金づちが打てない。
体重は少し減ったけど、食欲はある。昨日、膝がカックンして転んでしまった。
それから2週間後に診断を受けにきました。
・診察
腱反射をしてみたところ、大きく跳ね上がった。
はじめの診断
・多発性骨髄腫
骨髄の細胞ががん細胞に変化する
全身性の病気 腰や背中の骨の強い痛み
骨折 だるさなどが生じる 50歳以上に多く発生。
・リウマチ性多発筋痛症
首、肩、太もも周囲の筋肉痛
微熱 こわばりなどが起きる
全身性の疾患 自己免疫疾患で
60歳以上の人が多くかかります。
その他の検証
ドクターは腱板炎を疑い、アイロン体操をすすめた。腱板炎とは、肩の4つの筋肉と骨との接合部にある腱の総称で関節を支え、肩と腕を繋いでいます。
腱板の病気には、肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)か、肩の使いすぎで炎症を起こす腱板炎があります。
痛いので肩が動かせないのが腱板炎で無理やり上げるとあがりますが、肩関節周囲炎は、まったく腕はあがりません。
・悪性腫瘍
小脳にできたガンが運動の調整機能に影響を与え転倒などが起きた。
・傍腫瘍症候群
肺がんなどの伴い、腫瘍とは別の場所に筋力低下や感覚の以上など、様々な症状がでる病気の総称
最終診断は
筋萎縮性側索硬化症(ALS)でした。
・筋萎縮性側策硬化症(ALS)は
全身の筋肉が衰える進行性の難病、上位・下位 両方の運動ニューロンが侵される。50歳以上に多く発症します。
原因不明の難病で、有効な治療は見つかりません。全身の筋肉が衰え、身体が動かせなくなります。
視覚、聴覚、慣用や思考は失われません。発症から2~3年で呼吸ができなくなり死に至ります。
この診断をどう患者さんに伝えればいいのか、人工呼吸を使うかどうか、患者さんに決断を迫る必要があります。
人口呼吸をつける判断は
①病気そのもののケア
②本人の意思
③患者の背景 家族、経済
ALSは、病名を診断して終わったではなく、この3つを考えながら、最後まで患者さんにしっかり寄り添っていくことが大切だと研修医に伝えました。