お腹がひどく痛む・・といっても原因は、消化器、泌尿器、血管、筋肉など色々考えられます。
痛む場所は、みぞおち、お腹の上、へそ周辺、下腹部、脇腹、心窩部、右側か左側か真ん中か・・。
ドクターは、痛む場所や痛み方から病気を絞り込んでいきます。
腹痛は、命に関わる病気が多いので、的確な診断と処置が必要です。
今回のケースは、漁師さんが海にでているときに、激しい痛みに襲われました。
ドクターGこと洛和会丸太町病院上田剛士先生は、10分程度で病名をズバリと推測しました。
研修医たちは、腹痛の病名にたどり着けるでしょうか。
漁の最中に激しい腹痛に襲われる
●患者の症状
・息子とシラス漁にでている時激しい痛みに襲われる
・しらすがたっぷり入った重い網を上げた後腹痛が起こる
・痛みのでる前にかなり汗がでていた
・いつもより声が小さかった
・朝漁に出る前も右脇腹に腹痛があったがトイレに行ったら収まった
・下痢はしていなかった
・酒、煙草を吸う
・前日も漁の仲間と家で昼から酒を飲んでいた
・酒を飲むと風呂も歯磨きもせずに寝てしまう
・漁をやめ緊急搬送してきた
●搬送時の様子
・汗は引いていた
・吐き気、嘔吐、下痢はなし
・痛む場所 右わき腹
・右背部を叩くと痛む
・深吸時の痛みがある
・浅くて早い呼吸
●バイタルデータ
主訴 腹がひどく痛む
58歳男性 職業 漁師
165cm 78kg
体温 37.0度
血圧 156/82
脈拍 104/分
SpO2 96%
ファーストカンファレンス
上腸間膜動脈塞栓症
上腸間膜動脈が詰まってしまう病気。突然発症する、激しい痛み、冷や汗などの症状がある。
腎血腫
腎臓に血の固まりができてしまう病気。血腫が大きくなって圧迫したと思われる。腹痛、背中の痛み、フラつきなどの症状がある。
肺外結核
肺の外で発症する結核。痛み、発熱などの症状。症状が多肢に渡る、腸に感染、腸腰筋に感染などが考えられる。
反跳痛、腹膜刺激徴候はなかった。腹膜内の臓器ではないと考えられる。一般的にいわれる外科腹(外科の緊急手術の必要な状態)ではないと判断できる。
このことから、腹膜外の病気を考えてみる。
・大動脈解離・・激しい痛み 冷や汗
・腹部大動脈瘤破裂・・激しい痛み、冷や汗
冷汗、冷や汗は、命に危機が迫っているときのサインだが、運び込まれている時には、汗は引いていた。感染症による熱がでていたのかもしれない。
熱は上がる前に悪寒があり、熱が下がるときに汗をかく。病院に運ばれる前には、もっと熱が高かった可能性がある。
血管系の大動脈の病気の場合には、発熱の説明がつきにくいので可能性は低い。
セカンドカンファレンス
腸結核
腸に感染する肺外結核。右下腹部痛、発熱がある。軽度の場合には、腹膜刺激徴候がない。
横隔膜下膿傷
横隔膜に腫瘍ができる病気。腸結核が波及したと考える。発熱、寝汗などの症状。
感染性心内膜炎
心臓の膜や弁に細菌が感染。息切れ、胸痛。経過が早く、患者の口の中が不衛生なことから。
最終診断
聴診、打診、触診を行う。
頸動脈の怒張(腫れ)なし、脚の浮腫なし、心音異常なし、呼吸音右下肺野 減衰、打診右下肺野に異常。
声音振盪(せいおんしんとう)を行い、声の伝わり方をチェックした結果、右肺下部に振動が伝わらなかった。
最終診断 膿胸
胸膜炎の一つ。口の中から細菌が侵入し、肺の外側の胸膜に膿がたまる病気。発熱や胸や背中が痛む。
抗生物質で治療し、患者さんは元気を取り戻しました。
上田先生からのアドバイス
今回の症例では、呼吸を見ようと思わなかったら肺の病気に気が付かなかったかもしれない。
「鑑別疾患に挙げられなかった病気は鑑定診断に至らない」という言葉があります。
「どこの臓器にどんな事が・・」ということを、系統的に考え論理的に絞り込むことを忘れない医者になってほしいと思います。