私たちが子供の頃、アレルギーに悩む人はいましたが、今ほど多くはいませんでした。今では、気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、接触性皮膚炎など、アレルギー疾患に悩む人は周囲に沢山います。

アレルギーは、本来は人の体を守るための免疫反応ですが、ある抗原に対して過剰に反応してしまい攻撃を仕掛けてしまうことから起こる病気です。アレルギーの原因をアルゲンといい、ダニ、ハウスダスト、食物、花粉、薬物など多くのものが知られています。

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アレルギー反応が、短時間で全身に激しくおこると「アナフィラキシー」という症状をおこし、血圧の低下や意識障害が起こり命に関わる状態になることもあります。

アレルギーがなぜ起こるのか、これまで世界中で研究されてきましたが、原因は解明されませんでした。日本の場合、1960年代以降に患者数が急激に増加していることは事実でした。

最近、大阪大学の坂口志文教授が発見した、Tレグ(制御性T細胞)と呼ばれる免疫細胞が、アレルギー発症に関わっていることがわかってきました。

坂口教授は、Tレグの発見で、医学の分野で世界的な発見や貢献をした研究者に贈られる「ガードナー国際賞」を2015年に受賞しました。

Tレグ(制御性T細胞)とは、免疫反応を制御する機能があり、過剰な免疫反応を抑える役目があるそうです。このTレグが正常に機能しなくなると免疫の過剰反応がおこり、アレルギー疾患となってしまうようです。Tレグは、免疫だけでなく腫瘍免疫や感染免疫にも関わっていることもわかってきました。

北米で農耕や牧畜で自給自足するアーミッシュと呼ばれる人たちは、アレルギーが極端に少ないそうです。理由は、家畜との共同生活のなかで細菌を体内に吸い込んでおり、Tレグ(制御性T細胞)がたくさんいるためと言われています。

そういえば、私たち日本人は、家畜などから遠ざかった1960年頃からアレルギー患者が増えていきましたよね。一時は、ぎょう虫との関係まで指摘されたことがあり、ぎょう虫を体内に入れるとアレルギーが治るという話しもありました。

また衝撃の新事実として、アレルギーの予防のため、妊婦や幼児からアレルギー食品を遠ざけるのは逆効果だそうです。つまり、幼児期にはアレルギー食品を食べさせたほうが将来アレルギーになりにく体質になるとか・・。

理由は、アレルゲンを腸から吸収するとTレグがつくられ、皮膚から吸収すると免疫細胞が作られるてしまうためだそうです。

4月5日放送のNHKスペシャルでは「新アレルギー治療~鍵を握る免疫細胞~」として、Tレグのメカニズムを詳しく紹介します。Tレグの解明が進む中、アレルギーの根本的な治療法もできつつあるようですから、注目ですね。

ここから番組で紹介した新アレルギー治療です

今、新たなアレルギーの治療に注目が集まっています。完全に治すことは不可能と思われていた花粉症の症状も7割の人が改善するようになりました。

治療ができるようになったのは、Tレグと呼ばれる免疫をコントロールする制御性細胞の発見のおかげです。これから3年から5年で、アレルギーは改善すると言われています。

先進国では1960年以降、アレルギーに悩む人が急増してきました。日本でも、現在3人に1人がアレルギーと言われています。

解決のいとぐちとなったのは、アメリカで中世ながらの自給自足の生活しているアーミッシュと呼ばれる人たちに、アレルギーになる人が極端に少なかったことです。

都会に住む人に比べアトピー性皮膚炎は、10分の1、花粉症は20分の1でした。アーミッシュの方の協力で血液を調べてみましたが、アレルギーに強い特別な遺伝子は見つかりませんでした。

さらに詳しく調べたところ、Tレグという制御性T細胞が都会の人に比べ35%も多いことがわかりました。理由は、家畜との触れ合いでした。アーミッシュの人は、幼児のときから家畜が出す細菌をたくさん吸い込んでいて、そのため免疫が刺激されTレグが増えていたのでした。

アーミッシュは、Tレグが多いため攻撃細胞を抑えこむことができアレルギーになりにくく、都会で暮らす人は、Tレグが少ないため攻撃細胞を抑えきれずアレルギーになりやすくなっていたのです。

米国小児科学会では、2000年アレルギーを減らすため指針をだしました。その内容は、
①母親は、アレルギー食品をさけること
②乳製品を与えるのは1歳以降、卵は2歳以降、ナッツや魚は3歳以降
というものです。しかし、アレルギー患者は増えていったため、この指針には効果がないと結論付けられました。

その後医療の現場では具体的な指針が示されず混乱してしまいましたが、2015年2月に衝撃的な発表がありました。それは、ピーナツアレルギーを抑えるためには、幼児期にピーナッツを食べることで抑えられるというものでした。

腸内で食物のタンパク質に定期的にさらされると、それぞれの食品ごとに専門のTレグがつくられ、アレルギーを引き起こす攻撃細胞にブレーキをかけることができるようになるそうです。

母親にアレルギーがなければ、授乳中に何を食べてもよく、離乳食でも子供に異変がなければ何を食べてもいいそうです。(※これについては、「離乳食の与え方については専門家にご相談ください」という注意書きがありました。また、すでにアレルギーのある人絶対に食べないでくださいとのことです。)

Tレグが一番増えるのは3歳くらいまでで、その間に色々な食べ物を食べることでTレグが増えていくそうです。つまり、アレルギーは、遺伝より環境の要因が大きいということになります。

意外な事実は、肌荒れのためにつけていた湿疹オイルに含まれていたピーナツオイルがアレルギーの原因になっていたことです。

これは、炎症などで皮膚のバリアが壊れたところから食物のタンパク質が侵入してしまうと、外敵と勘違いし体が攻撃するようになってしまうためだそうです。

アレルギーの最新治療

舌下免疫療法

Tレグの性質を応用した治療法に、舌下免疫療法があります。2年にわたり舌下からスギの花粉を少量づつ継続摂取させることにより、スギ花粉のTレグを増やしていきます。

この治療法で約7割の人が改善するそうです。舌下免疫療法は現在、保険適用となっており、アレルギー性鼻炎に対するダニ舌下免疫療法も2015年中に始まるそうです。

スギ花粉成分入り治療米

農業生物資源研究所で研究しているのが、スギ花粉入のお米です。遺伝子操作により、スギ花粉のタンパク質を安全な状態にしてお米の中にいれ、この米を毎日1回食べることで根本的な治療を行います。

食べていると次のシーズンには、花粉症から開放されるそうです。臨床試験では、2ヶ月間食べたところTレグが増えて花粉の攻撃力が50%抑えられたという結果がでました。5年後の実用化を目指し研究が続けられているそうです。

アレルギー物質の注射

米国では、直接安全な状態にしたアレルギー物質を注射する臨床が行われています。ひどい猫アレルギーの人に、数回注射したところ、大きな改善効果が見られたそうです。

治ることがないとされてきた、アレルギーの根治もあと一歩のところまできてきています。悩んでいる人は沢山います。一刻もはやく治療薬ができるといいですね。