54歳の女性と聞くと、身体のどこの調子がおかしくても更年期の一つかと思ってしまいますよね。それも肩の痛みは、五十肩というだれもが経験する症状があるので、なおさら見過ごされてしまいます。

でも、今回の患者さんは、どうやらそんな単純な病ではなさそうです。

患者さんは54歳の女性美容師。腕が挙がらりづらくなり、カットが思うようにできなくなりました。結婚を迎える娘さんの髪を結ってあげたいと思っていたのですが、それさえ難しいような感じです。

肩周辺に痛みがあり、その痛みは肩なのか、胸なのかはっきり特定できず、よくわかりません。

一月まえに、心配になって病院へ行きレントゲンを撮ったところ、胸に影があると言われました。

薬を処方してもらい、症状は一度おさまりましたが、とうとう腕があがらなくなってしまいました。はたして、彼女を悩ます病気の正体とは何なのでしょうか。

感染症内科の若手のホープ、国立国際医療研究センター忽那賢志先生が、研修医たちを導いいてくれました。

肩と胸の原因不明の痛み

患者さん 54歳の美容師。
主訴・・肩や胸が痛い、腕が上がらない、息は苦しくない

基礎データ
・体温 37.5℃
・血圧 128/74
・脈拍 98回/分

40日前、娘と海外へタイへ行きました。帰国してから下痢などはありません。1ヶ月前にも同じような痛み、腰にも痛みがありました。体がだるく、運動すると息があがりました。
P.R.

翌日も痛かったので、病院へ行きレントゲンを撮ったら軽い肺炎との診断。鎮痛剤と抗生物質を処方してもらったら痛みもなくなりました。

3日前からまた、痛みがでて腕が上がらなくなり肩が痛く髪のセットもできないほどになりました。

来院時の診断では、心音、呼吸音は異常なし。レントゲンでも影は見当たりません。

ファーストカンファレンス

全員、結核という診断でした。

結核は、結核菌に感染することで、肺、腸、骨などに炎症が起こる病気です。痛みがあることから結核性胸膜炎を起こしている可能性があるとの診断です。

しかし、矛盾点として、動かすと腰痛が和らぐ、安静時に痛みがない、呼吸器症状が乏しいとの指摘がありました。

その他、考えられるものとして
・リウマチ性多発筋痛症
・帯状疱疹
・心筋梗塞
・肩関節周囲炎
・胸郭出口症候群
の病名があげられました。

しかし、患者の経過から見ると、いずれもその可能性は否定されます。触診すると、胸鎖関節の部分の痛みが特定されました。

セカンドカンファレンス

多発性筋炎
腕や太もも首などの筋肉に炎症が起こる筋力の低下や筋肉痛がある。
→把握痛がないことから可能性は低い

肺外結核症
結核菌により肺以外に病変が起こる病気。胸膜、椎体、腸、骨などに炎症が起きます。
→動くと楽になることから違う

SAPHO症候群
骨や関節の症状と皮膚症状が繰り返し起きる。原因不明の稀な病気です。

●診断でわかったこと
患者さんは、仙腸関節炎を起こしてました。

仙腸関節炎を起こす病気としては、以下の病名があります。

①硬直性脊椎炎
首、背中、腰などがこわばって次第に脊椎が固まって動かなくなってしまう病気です。

②反応性関節炎
特定の微生物の乾癬に誘発される関節炎です。膝などの下肢に関節炎が起こります。

③乾癬性関節炎
乾癬と呼ばれる皮膚症状と腫れと痛みを伴う関節炎が合併する病気です。
P.R.

最終診断・・SAPHO症候群

最終診断は、SAPHO症候群でした。

多くは、掌蹠膿疱症、胸鎖関節炎、3割に仙腸関節炎を起こします。掌蹠膿疱症は、手のひらや足の裏に膿が溜まった嚢胞が現れます。肺炎は、胸鎖関節から炎症が波及し起こしたものでした。

患者さんは、消炎鎮痛剤の処方してもらい完治しました。