中高年になってくると、身体の調子がガクって突然崩れることがありますよね。とにかくだるい、起きているのも辛い、気力がわかないでも熱はないし、咳もない・・・。
精神的なものなのか、身体のどこかが悪いのか・・なんて、考えているうちに毎日が過ぎてしまいます。
目は見えないし、ちょっと動くと息切れしてしまうし・・本当に、歳をとるってこういう事の積み重ねなのかなぁ~、なんて思ってしまいますよね。
今回の患者さんは、52歳の男性、サラリーマン。
半年前に事業の失敗の責任をとらせられ大手製造メーカーから、系列工場へ左遷されてしまいました。
その頃から、体調がおかしくなってしまったようです。「だるい、あちこちが痛い、会社へ行くのもつらい・・・」そんな訴えにも、家族からは「サボり病?」と言われる始末です。
ストレスからくる体調不良・・と思っていましたが、どうやら背景には、大きな病が隠されていたようです。
ドクターG 千葉大学医学部附属病院 生坂政臣先生が、研修医を導きます。
体が痛く疲れる ストレスだらけの中年の病名は・・
症状は、手、肘、肩、ひざ、とにかく全身が痛みます。
4ヶ月前頃から食欲がなくなってきました。その頃から、手足がだるくなって、会社へ行くのも辛くなりました。
3ヶ月前 夜はあまり眠れず、胸がドキドキするようになります。手足を動かすと痛くなってきて、市販の痛み止めを飲んでました。
夕方になると、疲れが溜まってしまいボーッとすることもありました。週末にゆっくりすれば、体はラクになります。体重は、この半年で7kg落ちました。
階段の昇り降りも辛く、じっとしているとそうでもないが動かすと、とにかく痛くなります。
マッサージをしたらラクになりましたが、翌日の朝は、また体がこわばってベットからでれませんでした。
心配になり、検査を受けましたが異常なしとの診断でした。心療内科を紹介され、よく眠れる薬を処方されました。
食欲がなくて、吐いてしまったこともあります。最近は、本当に辛くて、電車の踏切に飛び込もうと思ったこともありました。
来院3日前には、目が霞んで、倒れてしまいました。スポーツドリンクを飲んだら、多少ラクになりました。
●患者の精神的ストレス
6ヶ月前 責任被せられて子会社に副社長として出向。
5ヶ月前 娘の学費の問題
4ヶ月前 収入が2/3に減。夕方に仕事のペースが落ちる
3ヶ月前 自社製品を作業中に落とし、部下から冷たい目
2ヶ月前 はじめて早退、娘からサボり病と言えれる
●患者さんのバイタルデータ
・体温 36.5℃
・血圧128/84
・脈拍76回/分
ファーストカンファレンス
・ランバートイートン症候群(筋無力症症候群)
約半数は悪性腫瘍に伴って起きる自己免疫疾患、筋力の低下、だるさなどの症状が現れる。
・関節リウマチ
両手足の関節などが左右対称に炎症を起こし、痛み、腫れ、朝のこわばりなどが生じる。中年女性に多く発症。
→通常1時間以上朝のこわばりが強くでるが患者は15分程度で改善している。
・アミロイドーシス
アミロイド(異常タンパク質)が全身の臓器、神経、関節などに沈着。手足のしびれ、痛み、不整脈、食欲不振など様々な症状がある。
●その他の可能性
・仮面うつ病
気分の落ち込みなどの精神症状は、痛みなどの身体症状で覆い隠されてしまうタイプのうつ病。内科的検査で見過ごされやすい。
【うつ病(大うつ病性障害)の診断項目】
うつ病は、無価値観起こると自殺する可能性があるので、注意が必要です。
「体のあちこちが痛い」は、うつ病が原因なのか、それとも他の病気が原因なのか、症状を整理してみる
その他の候補としては・・・
・線維筋痛症
・全身性エリテマトーデス
・混合性結合組織病
・副甲状腺機能亢進症
最終診断・・続発性副腎不全
ポイントは、夕方になるとつらくなるという傾向。これは、日内変動のパターンがうつと真逆であるので病の可能性は消える。
この症状から、可能性として副腎不全が考えられる。
・副腎不全
副腎の機能が低下して副腎皮質ホルモンが不足する病気。全身のだるさ、筋力低下、吐き気、様々なうつ症状を示す。
体の痛みについては、副腎皮質ホルモンは炎症や免疫反応を抑制するため足りなくなると関節痛を起こすので説明がつく。
では、続発性か、原発性か・・
血圧が正常であることから、塩分をコントロールするホルモンに問題はなく、倒れてスポーツドリンクを飲んでラクになったことから糖分不足による血糖値の低下が見られる。
このことから、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)だけが欠乏している続発性副腎不全と診断された。
●治療
患者さんは、コルチゾール(副腎皮質ホルモン)を薬で投与。投与から数日で痛みは消え、数週間でうつ症状も改善しました。
生坂政臣先生からの研修医へのアドバイス
検査は万全ではないし、数千とある検査をすべてやることは不可能です。でも、人は体の症状を言葉で話すことができます。患者さんの言葉をしっかり聞くことが大切にしてください。
私たち患者側も、メモをとったり、症状の経過をまとめたりして病院で先生に伝えると、それだけ正確で素早い診断ができます。