IPS細胞が話題になってから、少し経ちました。言葉だけは、だれでも目にしたり耳にしたと思いますが、実際どのように治療に役だっているのか?役立てていくのか?よく分からない部分もありますよね。

IPS細胞は、患者さんの皮膚や血液から作製し、臓器、骨、筋肉などの再生に役立てます。

IPS細胞の治療で、臨床研究が始まっているのが、加齢黄斑変性です。国の承認が得られたことで実際の臨床研究が始まりました。

現在、加齢黄斑変性の患者は、70万人にも登ります。原因がはっきりとわかっていないだけに、発症したら治りません。失明にいたった方は、IPS細胞に希望の光を見たと言います。

加齢黄斑変性の症状は、ものが歪んで見えたり、焦点を結ぶ中央部分が霞んで見えたりします。

加齢黄斑変性で右目を失明した男性(76歳)は、
●視界が黒く霧がかかったように昼でも夜っぽく見える
●形はぼんやり
●薄い色は、白に見える
このような症状があると言います。

これから行われるiPS細胞を使った臨床研究の流れです。

①薬による治療の効果がなかった50歳以上の患者6人の同意を取得。

②iPS細胞を作るために、患者の上腕部から直径4ミリの皮膚の細胞を取り、とった細胞に3~4種類の人工遺伝子を投入。

1万~2万億ある人工遺伝子の中から、この4つを探し当てたことが山中教授のすごいところだと言います。

③人工遺伝子を投入した細胞に薬品を投入し、網膜色素上皮細胞にし、手術しやすいようシート状に培養する。

患者さんの細胞を取り、そこからips細胞を作り、シート状の網膜色素上皮細胞を作るまでには、約8~10ヶ月かかります。

細胞をとったあと約1年で手術となります。不要な血管で圧迫された網膜色素上皮という部分を注射針で取り除き、シートを移植します。

この治療後は、4年間経過観察をし、細胞シートは10年以上保存することになっています。

この治療を行なっても、視力が0.05か0.06の方は、0.1くらいしか回復しないだろうと推測されます。しかし、視野のゆがみが減り、視界が明るくなるなど「見る」機能は、改善されます。

これは、近眼の人の0.05とは違い、霞がかかっていたり、色のコントラストがなく、色がはっきり映らなかったりするので、患者さんにとったら、生活レベルは格段にアップすると言われます。

ips細胞による再生医療は、良いことばかりと思われますが、立ちふさがる問題もあります。

まず、IPS細胞は、皮膚などの細胞に複数の遺伝子を入れて作るため、この時に、細胞内の染色体が傷つき、がん化する危険性があります。

そこで、世界初の臨床研究対象に選ばれたのが「目」です。目が選ばれた理由は?

理由① 目はがんになりにくい
理由② 網膜色素上皮は、他の部分よりも細胞が少ない
(1万~2万個の細胞なら、すべてチェックできる)
理由③ 内臓と違い、目は移植後にチェックしやすい
仮にがん化しても、レーザーで焼き切れる

このような理由で、目の臨床研究が始まったのですが、一般の人が受けられるようになるのは、5年後位ということです。

加齢黄斑変性に関して言えば、臨床研究にかかる費用は、現在の試算で、5000万円。6人で3億です。これが実用化になったときにいくらになるのか?

また、事故などで骨髄を損傷した場合、4週間以内に、細胞移植が必要とされています。ところが、患者さんからiPS細胞を作るには、半年以上かかるので、間に合いません。時間がかかりすぎると言うのが問題ですね。

このことから、京都大学が中心になり、iPS細胞ストック事業が始まっています。健康な人の細胞からips細胞を作っておき、輸血のようにいつでも使えるようにするのが目的です。

これが実現すれば、10年後には、日本人の8~9割をカバーできると言います。将来的には、コストの面も、一人あたり500万円~1000万円に抑えられると言うことです。

500万円~1000万円でも、庶民にとったら高い治療費ですが、近い未来、保険も適用になり、誰でも受けられる治療になるといいですね。