ips細胞により、体の機能再生の可能性が見えてきた今、世界中の最先端医療情報が毎日のように飛び交っています。

でも、それが現実的に医療に生かされているかといえば、まだ研究や治験の段階がほとんどです。

課題は、移植した細胞が体に影響を及ぼすことなく安全に正常に機能するかということ。

ガン化してしまったり、生体になじまず壊死してしまったりなどの危険性を、いかに防げるかがポイントとなります。

愛知県蒲郡市にあるJ-TEC(株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)は、再生医療品として製造し販売が認可された日本で唯一の企業です。

開発の責任者は、事業開発室長 畠賢一郎さん(49)。畠山さんのチームは、再生医療の認可を得るために10年にわたり国と交渉を続けてきました。

欧米や他の国に比べて、日本の治験や認可制度は厳しく医療関係の開発で大きな障害となっていました。

しかし、2009年1月に、J-TECの「自家培養表皮」が日本で最初の「再生医療製品」として認められました。

これにより、怪我や病気、やけどによって皮膚の機能が失われた人たちが、保険で再生医療が受けられるようになりました。

全身の9割以上にやけどを負った5歳の男の子。火傷による皮膚損傷は、皮膚の20%を失うとショック状態に陥り、50%を超えると致死するといわれてきました。

男の子の場合の生存確率はわずか3%。彼の命を救ったのが、自分の細胞を培養してつくった「培養表皮」でした。

2013年4月、ひざ痛から患者を救うための「自家培養軟骨」が上市し保険適用までこぎつけました。

高齢者の歩行困難の大きな原因となっている変形性膝関節症の患者さんは現在1000万人、将来には3000万人になると言われています。

膝の軟骨がすり減ってしまうこの病気も、培養軟骨で再生できれば、多くの高齢者の寝たきりを防ぐことができます。

2013年6月、自家培養軟骨の生みの親である越智光夫教授の手により、第一症例となる膝の軟骨再生手術が広島大学病院で行われました。番組では、その手術の様子に完全密着取材。

「患者さん自身の細胞で未来の再生医療を」畠賢一郎さんは、全国の病院で当たり前のように再生医療が受けられる日々を実現に向け次の開発に挑んでいます。