身体に悪いところがなく、健康そのものなのに、脳機能のみが低下して認知症になってしまう人たち。

徘徊は、身体の元気な認知症患者の代表的な行動の一つです。

徘徊は、何らかの目的をもち動き始めるのですが、動いているうちに、目的を忘れてしまったり、自分のいる場所や時間がわからないなどの「見当識障害」がおき、結果、徘徊行動となってしまうようです。

徘徊

現在、我が国の認知症患者数は800万人と言われています。その中で、徘徊行方不明者は、年間約1万人もいるそうです。

認知症の人が行方不明になると、事故に巻き込まれたり、過労、脱水などの症状で命の危険にさらされることがあります。

2012年には、徘徊で死亡した人が351人、今だ、行方不明状態の人は208人いるそうです。

認知症行方不明

91歳の認知症の老人が徘徊で列車にはねられ死亡した事故に対する列車遅延による損害賠償として、名古屋地裁は、遺族に対し鉄道会社に300万円の支払いを命じました。

死亡した老人は要介護認定4でしたが、介護している妻が「まどろんでいて監視を怠ったため」として名古屋地裁が支払い判決を下しました。

裁判では、監視ができなければ、ホームヘルパーをつけたり、民間施設を使うべきだったとの、理由が述べられたそうです。

お金がある家にとっては、それも可能なのでしょうけど、そうでない家族にとって、介護の費用は大きな負担になります。

国の推進する在宅介護と、あまりにもかけ離れた現実の間で戸惑い思い悩む、私たち国民。徘徊行方不明老人を抱える家族と、介護現場の実態に迫ります。
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●群馬県で発見された女性の場合
認知症のため名前も住所もわからず7年間施設で暮らしています。夜さまよっていて警察の保護されたそうです。

群馬県の女性

身なりもしっかりしていて、品のある人なので、すぐに身元がわかるかと思っていましたが、それから7年が過ぎ、現在も身元がわからず寝たきりになってしまったそうです。

彼女は、指輪、服装など多くの手がかりがあったのですが、それでも身元が特定されなかったそうです。

市の職員は、3つの指輪のイニシャル、服装、言葉使いなども品のある方なので、すぐに見つかると思ったそうです。

指輪には、「5.12 S to m」と掘られ、靴下には柳田、下着にはミエコと書かれていたそうです。

※5月12日 柳田さんの名前が判明、夫滋夫さんと再会をはたしました。
詳しくは NHKスペシャル徘徊女性ヤナギダさん夫と再会

●徘徊の末行方不明となり2年見つからない87歳女性
娘さんと2人で暮らしていたのですが、認知症を発症。今も、娘と息子さんで探し続けています。

87歳女性

服や靴に名前を書いて注意していたそうですが、朝早く散歩にでかけそのまま行方不明となったそうです。

●行方不明で捜索1週間後、遺体で見つかった女性
娘さんと暮らしていたのですが、3年前から徘徊を繰り返していました。発見されたのは、自宅の向かいの民家の裏、塀と塀の隙間で倒れていたそうです。

行方不明から6日後にチラシをつくって配ったそうですが、その翌日に、死亡という最悪のかたちで発見されました。

●徘徊して保護されても身元のわからない男性
重度の認知症で、自分の名前、住所もすべてわかりません。

徘徊男性

介護施設で2年間暮らしていましたが、最近のテレビ放送で身元が判明したそうです。男性の家は、保護された場所から、わずか数キロのところでした。

●73歳の妻の徘徊を見守る男性
奥さんは認知症を発症、2年前から徘徊をはじめました。これまで何度も行方不明になり、危険なこともあったそうです。

地下鉄の階段から転落、家の鍵をかけたら2階のベランダから飛び降りることもあったそうです。

窓のサッシにはつっかえ棒、人の動きを感知するセンサーなどをつけて、奥さんの介護を続けています。

徘徊不明者が、どこで亡くなっていたのかを調べたところ遺体で発見されていた場所の半数以上が、自宅から1キロ以内だったそうです。

24時間100%認知症を見守ることは難しい・・家族で背負うことで精神的にボロボロになる・・見守り続けることは難しい・・それが、徘徊の親を抱える家族の本音です。

この問題は、今後一人暮らしが増えることで、なお深刻な問題になると予測されています。

家族のいない一人住まいの場合、徘徊を防ぐには、介護サービスに頼るしか手がありません。

しかし、訪問介護と、週数回のディサービスでは、徘徊を見守ることは、絶対に不可能です。

市の職員は、施設に入れたくても介護施設に空きがなく、本人も入る意志がないので現状のまま見守るしかできないといいます。

そんな中、北海道釧路での地域の取り組みが注目されています。

釧路では、警察に行方不明の連絡があると、FMラジオ、タクシー会社、新聞配達など350の施設で直ちに情報が共有され、地域全体で徘徊老人を探す仕組みをつくっています。

釧路では、このシステムを「SOSネットワーク」として20年前に立ち上げました。

国はこのシステムを、全国に普及させようとしましたが、うまくいきませんでした。

原因は、個人情報の壁と警察との連携がうまくいかなかったためです。釧路では、この問題を「人命にかかわるもの」と考え、情報を了解なく公開できる仕組みをつくり上げていたのでした。

これから、どんどん増えていく高齢者と一人生活者。現状では、認知症と徘徊を見守る具体的な方法が見つかっていません。

国は、理想の高齢化社会を唱えるのではなく、現実をしっかり見据え、具体的な方法を検討してもらいたいですね。