手足が突然麻痺したら、誰もが脳梗塞を疑いますよね。ところが、脳梗塞が原因でなく同じような症状が起こる病気があるようです。

今回の患者さんは、50代の梨農園を営む男性です。

梨の収獲で忙しく働いている時、突然、右手足に麻痺がおこり一輪車ごと転倒しました。

実は、男性の父親は、数年前に脳梗塞で亡くなっているため、誰もが同じ病気だと思ったそうです。

脳の診断

すぐに病院へ運ばれ検査されましたが、脳梗塞は起きていなかったようです。

今回のドクターGは、総合病院国保旭中央病院 塩尻俊明先生。塩尻先生は、患者と向かいあい問診と身体診察で本当の病名を探りあてていきます。

患者さんの状態

梨の収穫作業時、手足が麻痺し転倒してしまう。
近くの病院で検査を受け、薬を処方してもらい2ヶ月リハビリをしていた。
しかし、日に日に症状が悪くなり、先生に紹介状を書いてもらい来院した。

右側の手足がしびれて歩くのも辛い、立ち上がると左右の太ももが痛む。
顔面麻痺、ろれつの問題はない。

患者さんのデータ
男性55歳 農業、173cm 65kg

来院時のデータ
・体温 36.8度
・血圧 170/112
・脈拍 75回/分
・呼吸数 14回/分

初診の医師からの情報
・右手5本の指に筋肉低下、右足に筋力低下がみられる
・顔面の麻痺はない
・脳のCT画像の結果、左側に微細な梗塞がある可能性も
・喫煙20本/1日
・LDLコレステロール 148mg/l
・インフルエンザのワクチン接種済み

・6月時の検診と8月の検診データ
 体温36.5度→38.0度
 血圧 150/90→178/120
 脈拍 85回/分→88回/分
 呼吸数 16回/分→14回/分

ファーストカンファレンス

多発性硬化症
中枢神経が炎症を起こし、手足のしびれ、筋肉の痛みを発症。出現と消失を繰り返し、数年単位で進行する。

日がたつにつれ悪化する症状は合うが、血圧の上昇、発熱は合わない。

多発性筋炎
細菌など攻撃する抗体が過剰に働く自己免疫疾患のひとつ。正常な細胞が炎症し、筋力低下、首、腕、太ももなどの痛みがでる。

両側の太ももの痛みや発熱は合うが、右側だけの麻痺は合わない(両側)。

血管炎
血管に炎症をおこす病気の総称。血管の炎症で血流が滞り、発熱、手足のまひ、筋肉の痛みが起こる。

合わない点は、突発的な発症。

その他の可能性
・脳梗塞
・感染性心内膜炎
・ギラン・バレー症候群

追加診断

バレー徴候・・なし(脳梗塞の診断)
心雑音・・なし(感染性心内膜炎の診断)

問診でわかったこと
転倒1ヶ月前・・梨の紐結びがやりずらかった。親指、人差し指、中指に麻痺。
転倒3週間前・・右手が全体が閉じなくなり(くすり指)水が漏れて顔を洗えない
転倒1週間前・・食欲がなく、昼寝の後右手と右足にしびれ
診察時・・・・くすり指の内側と外側で感じ方が違う

最終診断は結節性多発動脈炎

結節性多発動脈炎は、中小の血管に炎症が起こるもの。この炎症により、まずはじめに親指、人差し指、中指を司る正中神経に異常が発生。

次に薬指、小指を司る尺骨神経、最後の足の神経を司る腓骨神経に異常が発生した。

神経の麻痺と太ももの筋肉にも痛みがあることから、血管炎と診断できる。
血圧上昇は、腎動脈の炎症により血管が細くなっていてが起きていたため起こったいた。

より細い血管の顕微鏡的多発血管炎もありうるが、この場合には血圧の上昇は引き起こさない。

治療
患者さんに、ステロイド(抗炎症薬)を処方し、継続治療している。

塩尻先生からのアドバイス

問診は、それを聞き出すための技術が必要。

医師の方から、患者さんの気づくきっかけを作ってやり、その言葉で医師も気がついていくことで情報を得ていくことが必要。つまり、患者さんに寄り添うということが大切です。