がん治療において、今世界中から注目されている治療法があります。その治療法の名前は、「免疫チェックポイント阻害剤」といいます。
免疫チェックポイント阻害剤は、免疫療法の一つですが、これまでとはまったく発想が違って開発された薬です。
これまでの免疫療法は、自分の免疫力を高め、血液中に戻すことでガン細胞をやっつけるという発想から生み出された治療法でした。
しかし、この考え方では、ガンに致命的な攻撃を加えられないことが、その後の研究でわかってきました。
それは、がん細胞には、免疫細胞の攻撃から身を守るため、免疫細胞の活動を弱めてしまうブレーキ機能が備わっていたのです。
そのため、いくら免疫力を高めてもがんの免疫ブレーキ機能があるため、有効な攻撃にはならなかったのです。
免疫チェックポイント阻害剤は、がんの持つ免疫細胞のブレーキ機能を働かなくさせ、免疫細胞から身を守ることができないようにしてしまうという発想から開発されました。
開発したのは、一人の日本人研究者です。
がんの防御機能が弱くなれば、体内の免疫細胞が働き、がん細胞をやっつけることができます。
自分の免疫細胞でガンを攻撃できるようになるため、全身のガンに適用でき、また長い間がんを攻撃することができるようになります。
まさに、まったく新しい発想から生まれた、最新のがん治療法なのです。
10月27日のNHK「クローズアップ現代」でも、今世界中から注目される「免疫チェックポイント阻害剤」による、がん研究最前線が紹介されました。
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免疫チェックポイント阻害剤の治療例
日本 73歳の男性 メラノーマ(皮膚がん)
右足に2cmほどのメラノーマができ、筋肉の中にまで転移し手術できない状態。国立がん研究センター中央病院で免疫チェックポイント阻害剤の治療をうけたところ、みるみるうちに縮小。
日常生活に問題ない状態にまで回復。現在も数週間に1度の治療を継続中。
米国 75歳男性 肺がん
肺がんが全身に転移し余命数ヶ月と診断される。抗がん剤の治療では効果がなく、免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験を行う。2cmの癌腫瘍が1年半後には、目に見えないほどに縮小。
米国 22歳の女性 大腸がん
リンチ症候群というガンになりやすい遺伝子をもつ22歳の女性。大腸がんはレベル4で、一時は危篤状態に。免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験を受け、1年後には、ガンが60%も小さくなり、外出も可能になりました。
免疫チェックポイント阻害剤が効きやすいがん
効きやすいがん
メラノーマ 肺がん(2割~4割の人に効果) 腎臓がん ホジキンリンパ種(9割の人に効果)
※日本では、メラノーマの治療のみ承認を受けている
※欧米では、メラノーマ、肺がんの承認を受けている
効く可能性のあるがん
頭頸部がん 卵巣がん 胃がん 乳がん
効きにくいがん
すい臓がん 前立腺がん 大腸がん
効きやすいガンは、がん遺伝子変異の大きながんで、遺伝子変異の小さながんは効きにくいといいます。
副作用
免疫細胞のブレーキは、自分と自分以外のものを識別して、自分以外のものを排除するための仕組みです。
そのため、免疫細胞のブレーキを塞いでしまうことで、免疫細胞の暴走がおこり副作用が起こります。
メラノーマ治療の場合、肺炎症、大腸炎症、重症筋無力症など、10人に1人の割合で重篤な副作用があったと報告されています。
今後の課題
・効く患者(遺伝子変異の大きな人)と効かない患者(遺伝子変異の小さな人)をどう見分けるか。
・副作用にどうのように対応していくか。
・効きの弱いガンに対しては、攻撃力を高めるにはどうすればいいか。
・薬の金額が高いので、効く人を見極め、副作用の少ない人に効率よく投与する必要がある。