沈黙の臓器として知られる肝臓。自覚症状がでてきたときはかなり悪化した状態と言われています。中でも、肝臓がんは特にやっかいで、国内では、毎年3万人の人が命を落としています。
肝臓の手術の難しさは、肝臓の機能そのものに理由があります。肝臓は、体の中で化学工場のような役目をしており、肝臓の中に張り巡らされた細かな血管を通して、代謝、解毒、胆汁の生成・分泌を行っています。
そのため、肝臓そのものが血の塊といわれるほどで、小さな腫瘍を切除する場合でも、大出血を起こす可能性があります。
そんな難しい肝臓の手術の世界的な名医として知られるのが、日本大学医学部消化器外科 高山忠利先生です。
肝臓は、ぬるっとした一つの大きな塊のように見えますが、中に張り巡らされた血管の枝分かれにより、8つの区域に分類することができます。
ガンなどの腫瘍ができた場合、その区域を確認しながら肝臓の切除手術を行います。
高山先生は、肝臓手術では国内でトップの手術件数。しかも、難易度の高い患者が多いにもかかわらず、5年生存率が他の病院より7%も高いそうです。
その秘密は、止血にあるようです。高山先生の手術は、手術中の出血量が通常の手術の1/3と極端に少ないことが知られています。
通常、肝臓の手術では、エネルギーデバイスという道具を使い血管を熱で変性させてつぶして止血しますが、高山先生のチームは、すべての血管を糸で一本づつしばって止血しながら手術するそうです。
縛る糸よりも細い血管がありますが、それも1本、1本、しっかり糸で縛り止血するそうです。それは、多くの労力と時間がかかりますが、この方法を使うと確実に止血することができ、身体への負担も少ないばかりか、回復も早いそうです。
また、高山先生は、これまで不可能だと言われていた肝臓の「尾状葉」という場所の手術を完成させた人として知られています。
尾状葉は、肝臓の裏側、右葉と左葉の間の奥にあって、前面からはまったく見えない場所にあります。そのため、尾状葉単独の切除は不可能と言われていました。
高山先生は、国立がん研究センターに勤務しているときにその手術法を完成させました。この手術法は「高山術式(尾葉状単独全切除術)」として、今では全世界で採用されているそうです。
高山先生は、外科医に必要なのは、手先の器用さではなく、必要なのは、「一つ一つのことを一生懸命行う努力」だといいます。
そんな、高山先生の手術が、「NHKプロフェッショナル」で「難しいガンに挑む凄腕の肝臓外科医」として紹介されました。
番組では、川島なお美さんが命を落としたと同じ「肝内胆管がん」を患い、他の病院では不可能と宣告された女性の手術の一部始終が紹介されました。
手術を終え2週間後、女性は元気になって笑顔で退院していきました。
「人の命を預かっているわけですから、いつも不安です。でも、それが自分の力になっている。その気持ちは、医者になったときからまったく変わっていない・・」と、高山先生は語っていました。
まさに、凄腕のプロフェッショナルの先生でした。
参考資料:
QLifeがん 肝臓の手術法 肝切除(日本大学医学部高山忠利先生)
日本大学医学部 医学生涯教育センター 尾葉状単独全切除術