カイコと聞いても、若い世代の人はあまりピンときませんよね。私たちの子供の頃は、当たり前のように農家で飼われていました。
桑の木を育て、カイコに食べさせサナギになった繭から糸をつぐみ絹糸をつくってました。世界遺産になった富岡製糸工場は、まさしく日本の養蚕業です。
絹糸を取り出し熱で死んでしまったサナギは、佃煮にして食べたり粉末にして家畜のエサにしたり、あますことなく利用されています。
漢方の世界では、滋養強壮薬として冬虫夏草が有名ですよね。
実は、このカイコが、世界中が待ち望むある病気の治療薬になるのではないかと言われています。
その病気とは「がん」と「認知症」です。研究をしているのは、岩手大学の農学博士 鈴木幸一特任教授。
鈴木先生は、カイコ一筋に46年、「カイコが人の健康にどう役立つか」を研究してきました。
あるとき、ヤママユという種類のカイコ研究していたときのことです。
ヤママユは、9月下旬頃に卵として生まれたあと、そのまま卵の中で幼虫になり8ヶ月も眠り続けているそうです。
「なぜ眠り続けられるのか」このテーマに興味をもち10年間研究し、眠りを維持させ続ける物質を発見し「ヤママリン」と名付けました。
取り出したヤママリンを、がん細胞に投与してみたところ、なんとがんの細胞増殖がピタリと止まったそうです。
がん細胞からヤママリンと取り除くと増殖が再開され、また投与すると増殖が停止します。
このことから、ヤママリンには、がん細胞を一時的に眠らせる効果があるのではないかと言われています。
今、このガンを眠らせる治療法は、引き続き研究されています。
また、カイコのサナギに取りつき繁殖するキノコの一種、「冬虫夏草」にも脅威のパワーがあることが実証されました。
冬虫夏草は、古来より滋養強壮などの漢方薬として珍重されてきました。
鈴木先生は、カイコ冬虫夏草から熱水で抽出物を取り出し、老化したマウスに投与したところ、記憶を司る海馬を修復する効果があることを発見しました。
これは、「人の認知症改善にも役立つはず」とプロジェクトチームを組み研究をスタートさせました。
乾燥粉末と熱水抽出物でカプセル薬剤をつくり、認知症に対して8ヶ月に渡る臨床試験を実施しました。
その、驚きに結果は・・TBS 夢の扉で紹介されました。
カイコ冬虫夏草の認知症改善効果 夢の扉
脳の中にできるカサブタのようなクリオーシスという物質ができると認知症になると言われています。
老化したマウスにカイコ冬虫夏草を投与したところ、クリオーシスの減少が認められました。
鈴木先生は、カイコ冬虫夏草が脳の中の栄養状態を改善しクリオーシスが減少するのではないかと仮説をたて、岩手医科大学神経内科 寺山靖夫教授の力を借りて臨床をスタートさせました。
臨床を行ったのは、92歳の男性と82歳の男性です。カイコ冬虫夏草の粉末を継続して飲んでもらい、その改善効果を追跡しました。
92歳の男性の場合、自分の年齢もよくわからず歯医者での会計では1万円しか渡せなかったところ、3ヶ月で小銭を渡せるまでに改善。表情のいきいきとするようになりました。
また、薬の仕分けも間違いないように、スピードも格段に早くなりました。
そこで、9人に認知症患者の4人にカイコ冬虫夏草を飲用してもらって、神経伝達物質アセチルコリンの量をチェックしました。アセチルコリンが減ると認知症は進みます。
結果は、飲んだ4人と飲まない5人の差はあまり変わらないという残念な結果でした。
しかし、実際92歳の男性では認知機能の改善が見られ、一人でも行動できるまでに回復していました。カイコ冬虫夏草が、脳のどの部分に作用しているのか、鈴木先生は、寺山先生の医学の力を借りて引き続き研究を続けています。
「新しい時代のダーウィンよ 増訂された生物学をわれらに示せ」鈴木さんは、岩手大学の大先輩、宮沢賢治のこの言葉をぜひ実現させてみたいと、カイコの研究を続けています。