手の震えは、私たち中高年になるとよく聞かれる症状です。有名なのに、パーキンソン病があります。
パーキンソン病は、40歳以降に多く発症する病気で、脳の中の神経に異常が起こることで、「ふるえ」「固縮」「無動」「姿勢障害」などの身体的障害がでてきます。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のマイケル・J・フォックスさんも、パーキンソン病になったことを公表していましたね。
女性の場合には、甲状腺ホルモンの分泌が亢進する甲状腺機能亢進症(バセドウ病)があり、やっぱり手の震えが起こりますよね。
今回の患者は、35歳のバリバリのスポーツマン。5年前までは、レスリングでオリンピックを目指していました。
現在は引退し、母校の大学でコーチをしていますが、指導中に脚の靭帯を痛めてしまいました。
靭帯の手術も無事完了し、回復のためのリハビリをしていたところ、急に手が震えだし熱もでてきました。
海外遠征の経験もあることから、感染症も考えられます。手術がきっかけなのか、それともまったく別な病気なのでしょうか・・。
病名解明には、家族や友人の言葉に多くのヒントがありました。今回は、自治医科大学 矢野晴美先生が、研修医を導いてくれます。
手が震えは感染?じん帯手術が原因?
4日前、左膝靭帯の手術をしましたが3日前より手が震えるんです。
震えは割と直ぐ収まります。入院してから3、4回おきてますが、痛みはありません。
右の手のしびれのほか、右足に力が入らないこともあります。頭を打ち付けたことはありません。
5、6年前まで、南米への遠征の経験があります。肉食が好きで、豚肉も生焼きで食べてしまいます。現地でお腹を壊したことはないほど、胃は丈夫です。
入院してから目が見えないこともあり、頭痛がするようになりました。ズキズキという感じで時々痛みます。
自分で記憶にないのですが、ある時ベットの下に寝ていたことがあります。
これまで、大きな病気をしたことはありませんが、3年前にひきつけ(痙攣)たことがあります。
病院へ行ってCTを取ったら、脳に石灰化があると言われました。誰にでも多少あるので、心配ないと言われました。
1年前、左の背中にニキビのような出来物ができてました。今は、左腕に同じような出来物がでてきてます。
同僚の腕にも、おなじようにイボのようなものができてました。
【患者の基礎データ】
・体温 38.2℃
・血圧 117//65
・脈拍 68回/分
・呼吸数 12回/分
第一カンファレンス
・髄膜炎(細菌性、ウィルス性)
脳を包む膜が炎症を起こす感染症。発熱、頭痛、吐き気、首が固くなる症状が現れ、脳炎を合併すると意識障害が起きる。
・左半球の脳膿瘍
細菌などが脳内に侵入し化膿してうみがたまる病気。発熱、頭痛、意識障害、痙攣、手足の脱力などがおこる。
・多発性硬化症
脳や脊髄などの中枢神経が炎症により侵される病気。症状がよくなったり、悪くなったりを繰り返すのが特徴。20代から40代に発症することが多い難病。矛盾点は発熱
●プロブレムリスト
①右手の震え
②意識障害または失神
③右上下肢の脱力
④発熱
⑤視野障害
⑥左ひざ靭帯断裂
⑦豚肉の生焼けの摂取
⑧発作性の後頭部頭痛
上記をオッカムのカミソリとヒッカムの格言から考えてみる。
【オッカムのかみそり】
14世紀の神学者ウィリアム・オッカムは提案した科学的なモノの考え方で、すべての症状を1つの病気で説明できる。
【ヒッカムの格言】
20世紀の医師、ジョン・ヒッカムが新たに唱えた現代的な格言で、複数の症状が複数の病気でおきる。
最終診断・・有鉤嚢虫症
最終診断は、有鉤嚢虫症。サナダムシの仲間である有鉤嚢虫の卵が体内に入って起こる感染症。
体内で成虫にならないが血流で皮膚、筋肉、脳などに運ばれ、皮膚のこぶ、痙攣、頭痛、視野障害などを起こすことがある。
この病気は海外渡航歴のある人で国産の豚肉加工品で感染した事例はありません。海外では、まだ有鉤嚢虫症の発症地域があるので気をつけてくださいね。