最近、病院の薬に漢方薬が積極的に使われるようになってきました。

西洋の薬に比べて、漢方はどちらかというと個人処方のようなイメージでしたよね。

中国や韓国では、東洋医学は、西洋医学と同列の医療機関であり病気の治療薬として漢方が使われてきました。

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日本でも江戸時代までは、東洋医学でしたが、昭和以降は、ほとんどが西洋医学に変わってしまいました。

しかし、漢方には、私たちが思っている以上の効能が潜んでいるようです。
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国立がん研究センター 上園保仁先生(54歳) は、漢方の可能性を追求するドクターです。

先生は、漠然としていた漢方薬の効能を、科学的手法を使って解明する研究を続けています。

上園先生自身、医学部時代や卒業後も、科学的根拠のない漢方をまったく信じなかったそうです。

しかし、2000年頃より、漢方に関する研究論文が次々と発表されるようになり、注目するようになったそうです。

「漢方は、調べれば調べるほど理にかなった薬」そう確信し、先生は漢方の可能性を探り始めました。

漢方が認められない理由は、科学的根拠が乏しいこと。身体に「なぜ効くのか」成分を分析し証明できれば・・。

そう思い研究に没頭しましたが、周囲からの風当たりは厳しかったそうです。

「科学的証拠のない漢方薬は信用しない」
「漢方薬の研究に税金を使うな」

そんな声になんどもくじけそうになったとき、先生を支えたのは、がんと闘ってきたお母さんの「得意 淡然 失意 泰然」
という言葉でした。

先生が今目指しているのは、漢方薬により抗がん剤の副作用を解消すること。がんをやっつけるための強い抗がん剤は、吐き気、食欲不振、手足のむくみ、シビレなどの副作用を引き起こし患者を苦しめます。

漢方には、その副作用を和らげる効果だけでなく、回復を早めるための素晴らしい効能があるといいます。

2ヶ月間何も食べれなかった直腸がんの患者さんは、漢方薬を服用してから、1日3食食べるようにまで回復したそうです。

その治療に用いたのは、「六君子湯(りっくんしとう)」。先生は、「六君子湯がなぜ効くのか」を、人の細胞レベルで解明することに成功しました。

六君子湯を服用すると、胃から分泌される食欲増進ホルモン「グレリン」を分泌することができるそうです。

次に、大建中湯(だいけんちゅうとう)。山椒、乾姜、人参をブレンドする大建中湯(だいけんちゅうとう)は、腸を整える働きがあります。

がん治療の現場では、開手術のあと、腸管運動を促して腸閉塞を予防するために服用されています。

乾姜は、大腸の血流をよくすることで、腸のぜん動運動を促進します。また、大腸の細胞を興奮させ、ぜん動運動を起こりやすくさせていたのが、山椒の成分です。これに人参を足すと、さらに効果がアップすると言います。

他にがん治療の副作用に使われているのは、五苓散(ごれいさん)。抗癌剤治療による手足のむくみを解消する働きがあります。

腹膜ガンを患っているある患者さんは、五苓散(ごれいさん)を飲み始めてから、むくみがかなり楽になったと言います。

このように、がん治療の現場で使われている漢方の効能を科学的に立証することができた上園先生。

現在、国立がん研究センターでは、吐き気止め、食欲不振の改善、手のしびれの緩和などを目的に20種類くらいの漢方薬が使われています。

漢方薬というのは、医療そのものを変える力があるといいます。「患者の痛みや苦しみをやわらげたい―」先生は新たな医療のあり方に挑み続けまています。