赤ちゃんの高熱、心配ですよね。

まして生まれたばかりの赤ちゃん(新生児)は、なぜ高熱を出しているのか非常に難しい診断になります。

口がきければ、どこが痛いとかわかるのですが、おっぱいを飲まないでぐったりして泣くばかりと言う状況ではお手上げです。

一般的には、新生児はお母さんからの免疫を持っている時期なので、なかなか熱を出しにくいと思いがちです。

事実、半年位経つとお母さんからの免疫がきれるため、突発的に熱を出すことがあります。

知恵がついてきた頃に出す熱なので、「知恵熱」などと呼ばれています。

新生児

今回のドクターGでは、生後20日の赤ちゃんが突然高熱を出した病名を探り当てます。

生後20日の高熱で一番疑われるのは、「髄膜炎」でしょうか。

髄膜炎と同類の病気とて、急性脳症、急性散在性脳脊髄炎(さんざいせいのうせきずいえん)、遅発性(ちはつせい)ウイルス感染症などがあります。

これらの病気は、非常に難しい病気で予後が悪く、早期発見、早期治療が大切です。

命が助かっても、重い後遺症を残すケースが多くあります。

親の判断では困難なので、すべてを医師にお任せすることになりますから、医師の責任も重大ですよね。

髄膜炎の判断基準の1つに、うなじの硬直があります。

発熱と同時にうなじに硬直(項部硬直と言います)が起こり、寝た状態から頭をもたげることが困難になります。

これを髄膜刺激症状と言い、髄液(ずいえき)細胞増加などが現れます。

高熱を発したとき、首の後ろの硬直を感じ、頭をもたげることが困難な場合、髄膜炎が疑われます。

髄膜炎は大人でもかかりますので、覚えておくと良いかもしれませんね。

今回のドクターGの「突然の赤ちゃんの高熱」、研修医の見立てと最終診断は何だったのでしょうか。

新潟大学医歯学総合病院 斎藤昭彦先生が研修医を導いてくれました。

産後20日の新生児が39.1度の高熱

出産後20日の新生児が突然高熱をだし泣き止まない。母親は慌てて、小児科に駆け込んできた。

●基礎データ
・体温 39.1度
・血圧 65/33
・心拍数 150
・呼吸数 48

●患者の様子
・背中やお尻に異常なし
・大泉門異常なし
・心音異常なし

・1日前より、いつもより母乳を飲まなくなった
・1日1回便がある
・いつもは授乳後3時間位寝てるが、1時間で起きてしまう
・咳はでてない

●母親の様子(出産)
・大きな病気はしていない
・妊娠6ヶ月検診のときに、少し貧血気味との指摘があり、豚肉やレバー、卵などを食べた
・出産は助産院でした
・陣痛から出産までは、まる1日かかった

・子供は38週、体重2904gで生まれた
・産後は母子ともに健康、大きな問題はなかった

赤ちゃんは、生後6ヶ月頃まで母親の免疫で守られているため、生後20日の赤ちゃんが熱をだすことはほとんどない。

ファーストカンファレンス

●腎盂腎炎
腎臓と尿管の接続部である腎盂が細菌に感染する病気で、多くは尿道から感染します。新生児の場合には、口から入った細菌で感染することもあります。

発熱、不機嫌になる、ミルクを飲まない、などの症状があります。

●髄膜炎
脳を包む髄膜にウィルスや細菌が感染し炎症が起こる病気で、発熱、けいれん、ミルクを飲まない、などの症状が現れる。

一刻を争う病気で治療しない場合、細菌性髄膜炎の致死率は7割~8割、適切に治療しても3割に後遺症が残る。

新生児の場合の感染ルートとして、胎盤感染、産道感染、接触感染(出生後)の3つが考えられる。

熱を出したのは生後20日後なので、出産後に感染したと思われる。

細菌性の場合・・・B型溶連菌、大腸菌、リステリア、結核、百日咳、肺炎球菌

細菌性を考えた場合、すぐに抗菌剤(抗生物質)と水分の補給を投与する必要がある。副作用として、腎臓、肝臓への負担がある。

ウィルス性の場合には、対処療法となる。ウィルスは、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、インフルエンザウィルスなどだが、新生児の場合には、ヘルペスウィルスの可能性が高い。

ヘルペスウィルスは大人の場合、重篤化することはあまりないが、新生児が感染すると脳の側頭葉に炎症がおき、50%以上の死亡率となる。助かっても重い後遺症が残ってしまう。

ヘルペスの場合には、アシクロビル(抗ウィルス薬)を一刻も早く投与する必要があるが、腎臓、肝臓に副作用を起こすこともある。

●実施した検査
血液検査(白血球数の異常)・・・細菌症を疑う
→検査結果 白血球9400個

血液培養(細菌検出)・・・細菌感染を確定できる
→検査結果 2日後

髄液検査(白血球数が基準より多い)・・・髄膜炎
→検査結果 白血球422個

PCR検査(ウィルスの検査)・・ウィルスの遺伝子を調べる。結果がでるのに2、3日かかる。個別のウィルス毎に実施する必要がある。

●患者に関する追加情報
・産後、外出はしていない
・自宅に、義理の姉と4歳の姪っ子がきた。姪っ子は風邪っぽく少し咳をしていた。
・産後面倒を見てくれている義母は風邪をひいていたようだ。
・産後10日後 義母の風邪が治ったので、面倒をみてくれるようになった。

血液検査の結果で白血球数が増えていなかったので、細菌性感染の可能性は低い。培養検査の結果も、すべて陰性だった。

ウイルス性を考えた場合には、ヘルペスウィルスをの可能性が高い。

判断が難しいのは、細菌の可能性が低くなったからといって抗菌剤をやめれないこと。

細菌が増殖していないうちに検査にだした場合、培養検査が陰性にでることがある。その場合に投与をやめた場合、あとから細菌性がでた時に、薬が効かなくなってしまい命に関わることになる。

つまり、双方の可能性が残っている限り、抗菌剤とアシクロビル(抗ウィルス薬)の2つ薬を投与し続けなければならない。

●ヘルペスの検査
ヘルペスを診断するため、MRIを実施。ヘルペスの場合には側頭葉に変化が見られるが、患者の場合には見られなかった。また、脳波検査も異常なかった。

最終的な方向性を見極めるために、髄液のPCR検査を実施した。結果は、髄液の検査も陰性だった。しかし、発症48時間内の場合には、陰性にでることもある。

他のウィルスの可能が診断されれば、治療を絞ることができる。姪っ子が風邪をひいていたことから、エンテロウィルスの可能性が高い。

新生児が感染するウィルスは数多くあるが、髄膜炎を引き起こすウィルスは、エンテロウィルス(夏風邪の原因となるウィルス)の場合が多い。

エンテロウィルスとの診断がつけば、抗菌剤は止めることができ、患者への負担を減らすことができる。

最終診断

エンテロウィルスによる髄膜炎
ドクターGは、PCRの検査でヘルペスウィルスとエンテロウィルスの2つ検査を同時にだしていたため、原因をいち早く特定できた。

エンテロウィルスの場合には特別な治療があるわけではないので、診断確定後2つの薬の投与を止めた。

患者は後遺症の心配もなく熱も下がり、入院3日目で元気に退院できた。

●ドクターGからのアドバイス
赤ちゃんの熱は、刻一刻変化して時間単位で変わるので、できるだけ予想しながら必要な検査をやっていく必要がある。