「忘れた・・」という言葉は、私たちの世代では当たり前ですよね~。

今回の患者さんは、「何も覚えてない・・」この2つ言葉は、似たような行動結果なのに、そこには大きな差があるようです。

しかも40代で、意外な病気ということですから、ぜひ確認しておきたいですね。

小さなパン屋さんをご主人といっしょに営んでいる42歳の女性。

pan_R

地元ケーブルテレビの、お店の紹介番組に出演。お店の商品をしっかり宣伝し、期間限定の値引きサービスを伝えたせいもあり、お客さんがいっぱい押しかけて大盛況になりました。

でも、そこでトラブルが発生。お客さんが値引きを要求したところ、女性主人は、そんなことを言った覚えがまったくないといい、お客さんをカンカンに怒らせてしまいました。

今まで一度口にしたことは、忘れたことなどないのに何かがおかしい・・。はたして、女性主人の体に何が起こっているのでしょうか・・。

ドクターのドクターとしてフリーランスで活躍する青木眞先生が、インターンたちを病名解明へ導きます。

40代女性の体に起こった異変とは・・

病院に来た時、自分の名前と年齢放送日や放送日時は覚えていました。

覚えてないのは、収録中のちょうど1時間の間。その前も、その後の記憶もしっかり覚えています。

記憶のなくなった日の朝、起きた時に、目がチカチカして、吐き気、頭痛がしたそうです。

来院時のバイタルデータは、すべて正常です。検査した結果は、頭部CT、血液検査は異常なし。ただ尿に少々血液が混じってました。

来院する5日前、寒気、筋肉痛がして、38.4℃の熱がでて、2日下がらなかったそうです。風邪かなと思って薬は飲みませんでしたが3日目に熱が下がりました。

ファーストカンファレンス

全員が、一過性全健忘と診断しました。

一過性全健忘とは・
何らかの病気が原因で起こる一時的な記憶障害。 前兆なく起こり発作中の記憶は回復しません。中年以降の人に多くみられます。

受け応えがしっかりし、記憶がない時間は1時間ちょっとであることから、一過性全健忘であることは明確です。

短期記憶は、脳の海馬が関わっています。この海馬が何らかの理由で障害がおきて一過性健忘が起こっていると予測されます。

ファーストカンファレンス

3人とも高安病と診断しました。

高安病とは・・
大動脈や頸動脈などの全身の大きな血管そのものに炎症がおこる自己免疫性の血管炎です。だるさ、めまいがおこり、若い女性に多く発症します。(患者数は全国で5千人)

血管に炎症が起こったことで、海馬に行く血管に十分に血液が届かず一過性の健忘症が起きたと推測しました。

●他の可能性として・・
菌血症
細菌感染で起こる病態で、血液中に細菌が存在する状態。

血管炎と菌血症は、似た症状がおきますが、血管炎は起きた場所で、菌血症は運ばれた場所で症状が現れます。

最終診断・・・感染性心内膜炎

心臓の内側の膜や弁に細菌が感染して起こる病気。心臓から送られた細菌が血管内につまり、長引く発熱やだるさがおこります。

●治療
すぐに抗菌薬を投与して治療を開始。心臓の弁の破壊が進んでいたため、心臓弁の入れ替え手術を行いました。

その後症状が治まり、2ヶ月後仕事に復帰しました。