中高年になると、女性の場合の更年期症状やメニエール病、非回転性めまいなど、フラつくことがあります。

男性では、ちょっと頑張ってしまって、マラソンやスキーなどした後、足腰がフラつくことがありますよね。

そう考えてみますと、フラつきは、私たちの身近によくあることですよね。でも、今回の患者さんの場合は、そんなフラつきとちょっと違うようです。

患者さんは65歳の時計職人です。この道一筋40年、専用ルーペをつけ、時計修理の細かい作業を長年続けてきました。

自治会の役員も務めるほど、積極的で明るい性格です。ある時自治会で河川清掃している時、足元がフラつき河川に倒れてしまいました。

それからどうも体調が悪く、不思議な謎の痛みに襲われながら何とか仕事をこなす毎日でした。

河川の清掃で転倒した時、預かっていた友人の時計を壊してしまいました。その修理も終わり友人宅に届けたとき、ついにフラフラして立ち上がれなくなってしまいました。

はたして、彼のフラつきの症状は・・洛和会音羽病院 神谷亨先生が、研修医を導きます。

ふらふらして転倒し立ち上がれない

●患者さんのデータ
・体温 37.3℃
・血圧 112/63
・脈拍 96回/分

ファーストカンファレンス

・リウマチ性多発筋痛症
肩や腰、首などの筋肉、微熱、こわばりなどが起こる自己免疫性疾患。
60歳以上に多く発症します。

・破傷風
破傷風菌による感染症。多くは3日~3週間で発症。菌がつくる毒素が神経に伝わり主に筋肉の痙攣をおこす。症状は 開口障害、呼吸筋の麻痺 後弓反張など

●その他の候補
・大動脈解離
大動脈の内側が裂け血流が阻害される病気。症状は、胸、背中などの激しい痛み、手足のしびれ。

・感染性心内膜炎
心臓の内側の膜や弁に細菌が感染して起こる病気。症状として発熱、だるさ、食欲低下がある。

●患者さんの追加情報
最初に頭が痛くなったのは、4日前で左のおでこの部分が引っかかれたような痛みでした。

3日前には、左目の周りに刺さる感じがして修理専用のキズミというメガネを左目から右目に変えました。

翌日には、右のおでこにズキズキした痛みがでるようになりました。

倒れた日は暑い日で、午前の河川清掃作業で疲れてしまい、ダルくて吐き気で食欲もありませんでした。右足にこむら返りのような感じがあり、ふらふらして倒れてしまいました。

家に帰り水分をとって涼しい部屋で体を休めたらラクになって、夕食時には吐き気もおさまり食欲も戻りました。今は、頭の痛みは全体に広がって悪化している感じがします。

第二カンファレンス

・甲状腺機能亢進症
甲状腺の働きが活発になりすぎて、全身の組織に影響を及ぼす病気。症状として、動悸、不整脈、発熱、体重減少がある。その結果不整脈がおこり、血の塊が飛んで三叉神経がつまったのでは・・・

・リウマチ性多発筋痛症+熱中症による脱水
河川でのだるさは、家に帰ってから体を冷やして落ち着いたことから、単純に熱中症と考えたほうが素直。

4日前 左の額が痛い(ひっかかれるような)
3日前 左目の周りに刺さるような感じ
2日前 右のおでこもズキズキ痛み出した
当日  頭全体にかなり強い痛みがある
(8/10のかなり強い痛み)

頭痛を考えると、これまでの診断のほとんどが可能性が低くなった。素直に考えると頭の問題で髄膜炎ということが考えられる。

髄膜炎
・脳を包む膜が炎症を起こす感染症。
頭痛、発熱、吐き気などの症状がある。細菌性の場合重症化し命に関わることもある。

首を横にふったときに(1秒間の2、3回)頭の痛みが強まるかどうかのジョルトアクセンチュエーションで診断できるので、やってもらったところ、痛みが強まった。

このことから髄膜炎であることが決定できました。あとは、細菌性髄膜炎かウィルス性の髄膜炎か・・。

引っかかれるような痛み、刺さるような痛みがあることから三叉神経に異常が考えられます。

ヘルペスウィルスや、帯状疱疹ウィルスが暴れだし、神経を炒めた可能性がある。

帯状疱疹は、全身の神経節にそって痛みを伴う皮疹が出現するウィルス性感染症で、ストレスや体の抵抗力が落ちた時に、水痘・帯状疱疹ウィルスが活性化し発症します。

最終診断・・髄膜炎

左の鼻に皮疹、ハッチンソン徴候が見られてました。水痘・帯状疱疹ウィルスによる髄膜炎と診断します。

水痘・帯状疱疹ウィルスは、疲れや熱中症、友人の大切な時計を壊したことによるストレスから発症したと思われます。

帯状疱疹が三叉神経の第一枝領域に起きた場合、目に及んで失明の危険性もあります。

●治療法
抗ウィルス薬を投与し、帯状疱疹髄膜炎は完治しました。