2014年の夏、国内で70年ぶりにデング熱が発生し、代々木公園が閉鎖され大騒ぎになりましたね。

デング熱とは、熱帯や亜熱帯の東南アジア、南アジア、中南米が主な発生場所で、ネッタイシマカなどシマカの仲間によって感染が拡大していきます。

日本では、海外でウィルス感染した人の血を吸ったヒトスジシマカが媒介となり、代々木公園付近の人を次々と刺して、感染が拡大しました。

3日から、7日の潜伏期間のあと、発熱や発疹、関節痛がおこり、時には重症化することもあります。

今回の患者さんは、昨年の夏、デング熱騒動の最中に、代々木公園でランニングをしていたという女性です。

ランニングをする女性

高熱を発症して倒れ、ドクターGの病院に運び込まれました。

患者は、デング熱か、それとも他の感染症か・・。症状は、高熱、下痢、腹痛、悪寒・・など、ごく一般的なものだけに、判断が難しく研修医たちも戸惑います。

そんな研修医たちを導いてくれるのは、日本の感染症対策の最前線で活躍する総合診療医、国立国際医療研究センターの忽那(くつな)賢志先生です。

その病名の解析には、ミステリーの謎を解くような推理が必要でした。

30歳女性の症状

患者の症状
女性32歳 会社員 163cm 50kg
主訴 高熱で苦しい
体温 40.1度
血圧 120/84
脈拍 102回
呼吸数 21回/分

・2日前から熱っぽく、震え、悪寒がしている。

・喉の腫れはなし、鼻水なし、吐き気嘔吐なし。

・便は下痢状態で水ぽくシャーッとした便、熱が出た2日前から、1日4、5回トイレに行くようになった。

・お腹に痛みがあったが、便に血は混ざっていない。

・お腹を触診したところ肝臓とひ臓に腫れ、右下腹部に腹痛。

・ズキズキとした頭の痛みがあるが、筋肉痛はない。

・3週間前にも熱39度の熱があり、家の近くの病院にかかり、抗生剤と解熱剤を処方され3日ほどで下がった。

・半年間で海外渡航歴なし。

・デング熱の騒ぎの最中に、代々木公園で毎朝ランニングをしていた(蚊にさされた記憶はない)

・自分の部屋で亀を飼っている。

ファーストカンファレンス

つつが虫病(リケッチア)
高熱、強い頭痛、全身の倦怠感、
比較的徐脈(熱の割に呼吸数があがらない)・・40度の熱なら、通常脈数は130~140回/分だが、患者は102回。
ツツガムシ病なら刺し傷があるはずだがなかった。

細菌性腸炎
発熱、腹痛、嘔吐、下痢、重篤な場合には敗血症に。
原因は大腸菌、o-157、サルモネラ、カンピロバクターなど。

その他の可能性
腎盂腎炎(腰、背中の痛み、高熱、下痢)

腸チフス(高熱、下痢、便秘、発疹、比較的徐脈)・・主に海外渡航で感染。国内感染は年間10数例

クローン病(原因不明の難病 発熱、下痢)

感染症(腸と腸以外)と感染症以外の21の病気をピックアップしてみる。

ポイントは、3週間前にも高熱がでていたこと。30代の女性であることから、今回の病気とは一元性があると考えたほうが自然。(若い女性が1月内に、別な病気で2度高熱がでるとは考えにくい)

さらに、肝脾腫(肝臓とひ臓が両方腫れている)の症状があること。

デング熱の場合、高熱、頭痛、比較的徐脈はあるが、熱が下がってくる頃に全身に皮疹が見られる。しかし、日本国内でデング熱に2度かかる可能性はない。

同じ症状の患者が他に2人いた

診療中に10歳の男子が、同じ症状で運び込まれてきた。お腹には、バラ疹が見られる。

2日前、東南アジアへの海外渡航歴のある35歳男性が、腸チフスの疑いということで空港から直接きた。

話をよく聞いてみると、3人には意外な共通点があった。それは、代々木公園付近に来る移動販売車のお弁当を食べていたことである。

最終診断

腸チフス
腸チフスは、衛生環境の悪い、発展途上国の飲水や食べ物を介して感染します。潜伏期間は7~14日間ほどです。

海外渡航しなくても、保菌者のふん便にも腸チフス菌が含まれていて、保菌者がよく手を洗わないで生の調理したときなどに感染します。

発腸チフス感染者のおよそ1割弱が、治ったあとにも体の中に菌が残る無症候性保菌者になります。

今回のケースでは、移動販売車の料理人が腸チフスの無症候性保菌者で、トイレに行ったあと、良く手を洗わず生野菜などを料理していました。

海外渡航した男性は、実は、海外で感染したのではなく、国内で感染してから渡航し、潜伏期間を経て渡航中に発症していた事がわかりました。

忽那先生からのアドバイス

感染症の病気をつきめると同時に、感染源が何かということを突き詰めることも重要となります。

今回の場合には、保健所に直ぐに連絡し対応してもらいましたが、すでに8人が感染していました。

患者さんが教えてくれることが、患者さんの情報のすべてではありません。自分から情報を取りに行き、総合的に分析して診断していくことが大切です。