老いのメカニズムが、だんだんと明らかになってきています。生物である限り、死から逃れるすべはありません。

生物は、生殖と世代の交代で進化していきます。ですから、細胞の社会の大原則は「生殖優遇」だそうです。

生殖のためには、人体を守るための免疫細胞の補充さえ止めてしまいます。免疫システムが止まってしまうと、細胞が活性化しないため、老いが始まります。

その結果、高血圧、糖尿病、脳梗塞など、次々と病が引き起こされやがて死んでいきます。

山中教授らが発見したips細胞は、老いた細胞を初期の段階までよみがえらせることができます。

つまり、細胞の宿命である老いを逆行させているのです。この仕組みを利用すれば、老いは止められるのでしょうか。

生物進化の重要な役割を担う「老い」のメカニズムを解明します。
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老いの根底に免疫細胞の存在があることがわかってきました。

イタリア・サルテーニャ島は、世界一の長寿の島です。なんと、5000人に1人の割合で100歳を超えているそうです。

長寿者の血液を調べると、免疫細胞が衰えておらず病原体に強い体質であるということがわかりました。

免疫細胞は骨髄で作られ、血液にのって全身を巡ります。免疫細胞には、司令塔役のT細胞や、異物を捕まえる樹状細胞、異物を食べてしまうマクロファージなどがあります。

しかし、体を守る免疫細胞がしっかり働くのは、20代までです。20代以降は、他の細胞と同じく老化していきます。

免疫細胞が老化すると、暴走するようになり、その影響で、動脈硬化や糖尿病が引き起こされていることがわかってきました。

つまり、免疫細胞の暴走を止めれば、体の衰えを防げる可能性があるのです。

運動をすれば、免疫細胞が活性化することが知れています。運動は、一日わずか5分でもいいそうで、老化を防ぐ一つの手段と言われています。

今、京都大学では、iPS細胞から人工のT細胞をつりだし、それを体内に戻すことで免疫細胞を活性化させ、病気を治すための研究が進められています。

また、一度損傷すると再生不可能な神経細胞を、iPS細胞で作った神経幹細胞で回復させることに挑戦、マウス実験のレベルでは、見事に成功しました。

人は、60兆個の細胞が役目をまっとうし、老衰で死ぬことが幸せとされてます。でも、そうでない人にとっては不本意な死になってしまいます。

iPS細胞は、そういう人たちを救うことができる可能性をもった万能細胞なのです。

拡張型心筋症という難病の患者さんに、iPS細胞から作った心筋の細胞シートを移植し、弱った心筋を再生する臨床も始まっています。

山中教授は、60兆個の細胞のポテンシャルはとてつもなく高いといいます。

細胞のほうが、人より悟っているのは間違いなく細胞のほうがはるかに上手で、調べれば調べるほど、神にしかつくれないと実感するそうです。
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医療技術が、命の起源まで立ち入ることができるようになった今、幸せな生とは、死と何か・・・。何歳まで生きることが幸せなのか・・

神に委ねられていた命さえ、個人が、選択できる時代になりつつあるんですね・・。