がん手術として、もっとも難しいとされる肝臓、胆道、すい臓がん。

川島なお美さんは胆管がん、すい臓癌では坂東三津五郎さん、安倍晋太郎さん、栗本 薫さん、アップル社のスティーブ・ジョブズさんは肝臓がんで亡くなりました。

それらの難しいがん手術に挑み、驚異的な生存率を高めているドクターがいます。

静岡県立静岡がんセンターの肝・胆・膵外科部長の上坂克彦先生(57)歳です。

上坂先生は、名古屋大学医学部卒業後、国立がんセンター病院を経て、2002年静岡県立静岡がんセンターの肝胆すい外科部長に就任。

開業から13年の静岡がんセンターを、全国トップレベルまで牽引しました。

上坂克彦先生のところでは、胆道、肝臓、膵臓などの手術を、年間380件こなしているそうです。

手術の様子

すい臓ガンはとくに難しく、5年前までの術後5年生存率は2割といわれていました。

しかし、2013年1月、上坂先生はすい臓がんの手術後、「S−1(エスワン)」と呼ばれる経口抗がん剤を投与し、術後2年後の生存率70%の成果を発表し、世界中から注目されました。

上坂先生は、「すい臓がんの5年生存率が40%になる可能性がある」といいます。

「そもそも、神の手など存在しない」「あらゆる手段を考え、患者のために最善を尽くす、絶対諦めない心が大切」と語る上坂先生。

そんな、上坂先生の医術にかけるに生き方が、TBS情熱大陸で紹介されました。

入念に準備してきちっと手術するだけ

「手術は薄い底板の船に乗っているのと一緒。うまくいっている時にはいいんだけど、底板が外れた瞬間に無限地獄に落ちる。肝臓とかすい臓とはそういう世界なんです」と上坂先生は言います。

上坂先生の専門は、肝胆膵です。胆嚢、胆管、膵臓、肝臓をいい、これらは沈黙の臓器ととわれ自覚症状がほとんどありません。

そのため、気がついたときにはかなり進行してしまっていることが多く、患者が上坂先生のもとを訪ねてきた時には、かなり切迫した状態になってしまっています。

上坂先生は、これまで手がけてきた30年分の手術のすべてをスケッチに残してきました。複雑な臓器や血管の配置が、すべて書いてあります。

「これが正確に書けるということは、すなわち手術も正確にできるということ」といいます。この手法は、病院の部下たちにしっかり引き継がれているそうです。

1回の手術時間は、おおよそ8時間~10時間。手術の半分以上は血管や臓器を縫い合わせる時間です。その間、食事も休憩も一切ありません。

先生は、「神の手」という言葉は嫌いだそうです。

「神の手というと何でもできちゃうイメージですが、そんなことはなく、かならず限界はあります。我々のできることは入念に準備して、きちっと手術するだけなんです」といいいます。

番組では、肝門部胆管がんになり、九州の大手病院から手術は無理と言われた、71歳の現役内科医がセカンドオピニオンで訪ねてきました。

この部分は、胆管と動脈と門脈(静脈)が、立体交差のように複雑に絡んでいて消化器では最も難易度の高い手術と言われています。

上坂先生は、かすかな可能性を見出し、その手術に挑みました。

「手術ができる状態とダメなところにボーダラインがある。そのギリギりの隙間に可能性を見出して、うまくやれるかどうかが専門家の専門家たるゆえん」

「それが私たちのやりがいだし、私たちが存在するゆえんなんです」といいます。

71歳の内科医は、無事手術を受け元気に退院していきました。「こんな先生はみたことがない・・」現役医者の語ったその言葉に、上坂先生のすべての姿があります。