日常生活で、突然息苦しくなるときがありますよね。階段を登ったり、横になっている時だったり、深呼吸をしても、うまく酸素を吸えてないような感じです・・・。

肺?心臓の病気?過換気症候群?気管支?なんて心配しながら、日々過ごされている方も多いと思います。

今回の患者さんの場合は、息苦しさから深刻な事態になり救急外来に運ばれてきました。症状は重く命の危険もあるとか・・。

患者さんは29歳のバツイチ女性。今までの会社を止めて、新たな仕事につきました。

ある日、高齢者の住んでいる古い家で作業をしている時、突然息苦しさに襲われ、緊急外来に運ばれてきました。

女性は、ぜん息の持病があり、ステロイド剤を日ごろ服用していました。そのため、今回もぜん息の発作だと考えていたようです。

古い民家のハウスダストがきっかけなんでしょうか・・。以前、ろっ骨を荷物に強くぶつけて青あざをつくったこともあるようです。

実はその息苦しさの陰に、大きな病が隠れていました。聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 北野夕佳先生が研修医を導いてくれます。

息がしづらい!救急に運ばれた女性の病名は・・

お手伝いサービスの仕事をしているのですが、朝から具合が悪そうでした。

高齢者のおばあさんの家で作業しているとき、三角コーナーの生ごみ、掃除機のゴミを捨てたときから、急に咳き込みはじめ、息がつけなくなってしまいました。

昨日、16時間前にも息苦しくなりましたが、ぜん息もちなので、吸入したらラクになりました。

実は、3日前、仕事中にテーブルに胸の下を青あざができるほど打ち付けてしまいました。

その場所は、今も痛みがあります。痰はでてません、薬のアレルギーはなし、秋に目がかゆくなります。

5年前に結婚しており、妊娠したのですが、仕事で無理し子供が流産してしまいました。

ピルなどの女性系の薬は飲んでいません。これまで、大きな病気はしてません。

脚は腫れてません、海外旅行にも行ってません。ふくらはぎの痛みはありません。休日は、家でゆっくりしています。

酸素吸入をしながらステロイド点滴と気管支拡張の薬を処方しましたが、酸素飽和度は92%までにしか回復してません。

レントゲンの検査結果はキレイでした。

●来院時の基礎データ
体温 37.4℃
血圧 148/72
脈拍 126回/分
呼吸数 32回

酸素飽和度は82%、正常値は95%ですから、命に関わる数値です。

ファーストカンファレンス

・肺血栓塞栓症
主に脚の静脈にできた血の塊が心臓から肺動脈に流れて詰まったり、血の流れが悪くなる病気

・過敏性肺臓炎
特定の物質を繰り返し吸い込むことで起こるアレルギー性の肺炎

●それ以外に考えられる病気
・気管支ぜんそく
ちり、ほこり、微生物などによって発作性の激しいせきや呼吸困難を繰り返すアレルギー性の病気

しかし、呼吸音の聴診では、呼吸音のピューがわずかにしか聞こえませんでした。でも、気管支ぜんそくが重症化したサイレントチェストの場合には、雑音がほとんど聞こえません。

肺炎の可能性は、呼吸数32回、酸素飽和度82%から考えられますが、体温37.4度、急激に息苦しくなった点があいません。

・肺に穴が開き、空気が肺から漏れでてしまう気胸や、血液と空気が肺の中にたまってしまう血気胸は、打ち付けたあと数分から数時間で起こるので、3日前の打撲は該当にはなりません。

・過敏性肺臓炎の場合、酸素飽和度82%ならレントゲンに影が写ることがことが多いですが、肺はキレイな状態でした。

最終診断結果・・肺血栓塞栓症

肺血栓塞栓症でした。

問診で「長時間、同じ姿勢でトイレにもいかずにいたようなことは・・」と聞いたところ、2日前に8時間トイレにも行かず座ってゲームをしたいたことが判明。立ち上がったとき、左脚が少し痛かった記憶があるとのことでした。

さらに、深呼吸をしてもらったところ、胸膜性の胸痛があったことから肺血栓塞栓症と推測し、来院5時間後、CT検査を決断し、肺に血栓があることを確認しました。

患者は気管支ぜんそく持ちだったため、造影剤によるCT検査には細心の注意が必要となります。

血液が固まりやすい体質かを確認するため、抗リン脂質抗体症候群の検査を行ったところ陽性でした。

●治療
血液を固まりにくくするワルファリンを処方することで対応。元気に仕事をしています。

ワルファリンは、一生飲み続けなくてはなりませんが、妊娠を望むときには、胎児に影響のない薬に切り替えることで出産もできます。

問診は、思い当たることは徹底してきくことが大切です。「積極的な問診が患者を救う」

肺血栓塞栓症の要因となる、長時間のゲームにたどり着けたことで、問診の大切さを改めて実感したそうです。