脳梗塞は、血管の中できた血の塊が脳へ飛んでいき、血管をつまらせ脳の神経細胞を壊死させてしまいます。壊死した部分の機能は失われ、四肢や言語に障害が残ります。

脳梗塞を発症してから3時間以内なら、tPA静注療法で血栓を溶かし神経細胞の壊死を防ぐ方法があります。

しかし、「一度死んでしまった神経細胞は、永久に蘇らない。」それが100年続く脳医学界の常識でした。

脳梗塞を起こした患者は、懸命のリハビリで失われた機能の回復を目指しますが、身体には後遺症が残ってしまいます。

「一度失われた脳細胞は再生しない」その常識を打ち破ろうと研究を重ねているのが、先端医療センター 再生医療研究部 部長田口明彦さんです。

田口さんが研究しているのは、「自己骨髄幹細胞」を用いた脳の再生医療です。

脳梗塞を起こすと、脳をなんとか回復させようと神経細胞のもとになる神経幹細胞が、梗塞を起こした脳の周辺に集まります。

しかし、せっかく集まった神経幹細胞も、栄養を供給する血管がないためすぐに死んでしまいます。

もし、血管を再生させることができれば、神経幹細胞が活性化し機能が回復するのではないか・・と田口さんは気付きます。

脳梗塞の治療に、血管からアプローチする手法は、これまで研究されたことはありませでした。

この研究を進めようとしたところ「絶対に不可能であり、まったく意味がない・・」と周囲から相手にされませんでした。

しかし、田口さんは、マウスでの実験を重ね、骨髄幹細胞を移植することで血管の再生に成功。その血管により神経細胞が生き残り失われた機能が改善することを実証しました。

その後、霊長類での試験で安全性と効果を確認、ようやく臨床試験にこぎつけました。

治験は、回復見込みが薄い心原性脳梗塞患者12名。男性11人、女性1人に対して臨床を行ったところ、6ヶ月後、9人の自力歩行が可能となりました。

この血管再生の技術は、脳だけでなく、全身のいろいろな部位で応用がきくのでは、として注目されています。

「脳を知る、脳を守る、脳を創る時代から脳を治す時代に」「誰も成功していないからこそやる価値がある。」

田口さんは、造血幹細胞移植の研究を使い新しい治療法の確立をめざし研究をつづけています。

血管を再生して脳梗塞を治療

脳は再生する!それは血管から!これを確信したのは、末梢動脈閉塞症の治療です。

この疾病は、手の脳梗塞と言われ指先まで血液がいかないために、指先が壊死し切断を余儀なくされるこわい病気です。

末梢動脈閉塞症で指先を何度も削っていた患者さんに、造血幹細胞を投与したところ3か月後には血管ができていました。

この患者さんは、造血幹細胞を投与することによって血管が再生し、末梢動脈閉塞症が治ったそうです。

この結果を見て、田口さんは、脳梗塞の治療に「周辺の血管を再生させる」ことを確信しました。

しかし、その時の医学界の脳梗塞の治療は、「神経細胞そのものをどう再生させるか」でしたので、田口さんは異端児扱いを受けたそうです。

造血幹細胞による治療法

①患者さん本人から骨髄液を抽出します。

②分離器で、「血しょう成分、分離液、赤血球」に分離します。

③分離液の上澄みに、造血幹細胞が多く含まれる層ができるので、それを患者さんに投与します。

造血幹細胞投与1か月後と6か月後の脳の写真では、明らかに血流が増えています。

脳梗塞の治療は、一刻でも早く治療を開始し脳細胞の死滅を防ぐことが一番ですが、この治療は、二の手、三の手の治療として十分な意義を持ってくると言います。

参考資料:脳梗塞患者に対する自己骨髄幹細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望 先端医療振興財団 田口明彦(神戸医療産業都市セミナー 2013.9.5 資料)